コショウには殺菌効果もあった!?
前項では匂いが食欲をそそる話をしました。ここでは、ではなぜ、肉を焼くとおいしくなるのかについて考えてみましょう。焼き肉の匂いの成分を詳しく説明すると、焼いて発生する匂いは、脂からくるアルデヒド類やアミノ酸由来のピラジン類の香気成分です。では、肉を焼くとどうなるのか。肉の筋肉繊維とそれを覆っているコラーゲン組織は、加熱によって収縮します。なので、下処理や肉の熟成度合、焼き具合はおいしさの決め手になり、その食感は旨さに大きく影響します(図1)。具体的にいうと、焼くとタンパク質が分解してできるアミノ酸やペプチド、加えて筋肉繊維・コラーゲン線維なども分解され、肉汁として肉の旨さが凝集されます。この肉汁をいかに肉中に留めておくかが、調理人の腕?というわけです。まぁ、ナイフ入刀時に、ジュワーっと肉汁が滲み出るくらいがおいしい、とされています。
肉の味と保存には、スパイスやハーブなどの香辛料が大きく影響します。肉の保存と香辛料は切っても切れない関係で、12世紀ころの欧州では牧草が枯れて餌がなくなる前に家畜の肉を塩蔵し保存しました。ですが、塩蔵して保存した肉は独特の臭いを発生します。そのため、コショウなどの香辛料が臭いを消すうえ、抗菌効果もあることで重宝されたのです。歴史的にコショウの産地はインドでした。コショウは中世の欧州で珍重されましたが、入手が困難だったため、コショウと金は同価値だったという話さえあります。当時、コショウの利権がアラブ商人に独占されていました。その状況を打破すべくポルトガルのヴァスコ・ダ・ガマがインド航路を発見するのです。これが大航海時代のはじまりとなった。コショウが求められた理由の1つに、その刺激性がありました。コショウの辛み成分は脂に溶けやすいピペリンです。ピペリンは交感神経を刺激し、血行を促進することで食欲を増します。肉を焼く前に、塩とコショウを振ることで脱水と臭いを消し、焼くことで発生する香気成分が胃を刺激する。旨さには、匂いと食感がパートナーになる必要があるのです。
食肉のおいしさの構成要素
食肉のおいしさを構成する要素
食べる人の価値判断
官能特性が多様
調理・熟成の多様性
美味しさ
味
■旨味・酸味
■こく・脂肪
アミノ酸、ペプチド
匂い
■肉・甘い
■脂・和牛香
脂肪、ATP
食感
■噛み切り
■ジューシー
■口溶け
筋繊維、コラーゲン
熟成、調理
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解プレミアム 化学の話』野村 義宏・澄田 夢久
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解プレミアム 化学の話』
野村 義宏 監修・著/澄田 夢久 著
宇宙や地球に存在するあらゆる物質について知る学問が「化学」。人はその歴史の始めから、化学と出合うことで多くのことを学び、生活や技術を進歩・進化させてきました。ゆえに、身近な日常生活はもとより最新技術にかかわる不思議なことや疑問はすべて化学で解明できるのです。化学的な発見・発明の歴史から、生活日用品、衣食住、医学の進化までやさしく解明する1冊!
公開日:2023.09.14