『迷ったときは、前に出ろ』
5年前に70歳で他界した“闘将”星野仙一には『迷ったときは、前に出ろ!』(主婦と生活社)というタイトルの著書がある。
これは、そのまま星野の人生訓だ。
<あなたの人生において、やって後悔したこととやらずに後悔したことの数を比較してみていただきたい。誰もが“やらずに後悔したこと”のほうが圧倒的に多いものだ>
<やらなければ、何も残らない。
そこが大切なのだ。やって失敗しても、そこには何かが残る。それを拾って帰るのだ。人間が成長するとはそういうことだと思っている>
2002年に阪神の監督に就任した星野は、選手たちに「迷ったときは、前に出ろ」と言い続けた。
阪神ファンは熱狂的だ。ミスでもしようものなら、怒声はおろか、スタンドからメガホンまで飛んでくる。
星野が言うには、そうなると余計にプレーが消極的になり、悪循環を招く。そうした負の連鎖を断ち切り、若手に伸び伸びとプレーさせるために、先の言葉を発し続けたというのだ。
その結果が就任2年目でのリーグ優勝だった。
星野阪神が優勝した03年、1軍内野守備走塁コーチを務めていたのが現監督の岡田彰布だ。
岡田の著書のタイトルは『動くが負け』(幻冬舎)。まさか星野の本のタイトルを意識したわけではあるまいが、正反対だ。
2人の性格、生き様を、そのまま反映しているといっても過言ではあるまい。
著書の中に、こんなくだりがある。
<他人の気持ちを知る術のひとつに「こちらは喋らずに相手に喋らせる」という方法がある。
よく喋る人間は、必要以上に自分に不安を抱えているか、もしくは、自分に自信がないからそれを隠そうとしているかのどちらかだ。
これは私の経験上、間違いない。こちらが黙っていれば沈黙を恐れ、相手は喋りだすのだ。そうすれば相手の考えを自然と読み取ることができる>
星野が先手必勝なら、岡田は“後の先を取る”という考え方だ。
戦国武将にたとえていうなら、星野は織田信長、岡田は徳川家康か。
家康阪神ならぬ岡田阪神が18年ぶりのリーグ優勝。勝てば、書店のビジネス書コーナーに岡田の本が並ぶだろう。さて次は、どんなタイトルか。
初出=週刊漫画ゴラク2023年9月15日発売号