ノーをイエスに変える会話術
小さなお願いからハードルを上げて
こちらの要求に対して「ノー」と言いそうな相手に「イエス」と言わせたいと思うのは、ビジネスシーンではよくあることです。しかし、ただやみくもに要求を押しつけるだけでは、相手も警戒してなかなかイエスとは言ってくれません。そこで活用したいのが、段階を踏んで徐々に相手を説得する心理テクニックです。
例えば、仕事に消極的な部下にプレゼン資料作成をさせたいと思ったら、まず、「書類を日付順に並べてくれる?」などとハードルの低い簡単な仕事をお願いします。そして、部下が「それくらいならいいですよ」と受け入れたら、次に「書類のデータ修正もお願いできる?」と少し難易度を上げた仕事を頼み、それもクリアできたなら、「やっぱりできると思ってたんだ!プレゼン資料の作成もお願いできるかな?」と、最終目的の仕事を依頼するというプロセスを踏みます。
このように、小さな要求から徐々にハードルを上げて説得する手法を、心理学ではフット・イン・ザ・ドア・テクニック(段階的説得法)と言います。セールスマンが玄関のドアが開いたところで足をはさみ、セールストークを展開して交渉をまとめ、最終的には商品を買わせることからこの名がつきました。
人は、一度イエスと言ってしまうと、その後の要求を断るのは悪いかな、もうちょっとやってもみてもいいかなと思うもの。強い警戒心を持っていたとしても、小さな要求から徐々にハードルを上げられると、警戒心がゆるみ、つい心を許してしまうものなのです。そんな心理をうまく利用した人心掌握術の1つです。
無理なお願いから現実的なお願いに
前ページで紹介したフット・イン・ザ・ドア・テクニックの他に、ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックという心理テクニックもあります。これは、譲歩的要請法とも呼ばれ、大きなお願いから小さなお願いへとスイッチさせながら、最終的にこちらの要望を相手に受け入れさせるという手法です。例えば、部下に50ページ分のデータ入力をやってもらいたい場合、いきなり「50ページお願いできる?」といっても「無理です」と断られる可能性があります。しかしここで、受け入れてもらえないことを想定して「100ページ分お願いできる?」と聞いてみるのです。部下から「100ページなんてできません」と断られたら、「じゃあ、50ページならできるよね?」とたたみかけるのです。すると、部下には最初の依頼を断った後ろめたさがあるために、「50ページならいいですよ」と受け入れてしまうという心理です。「断ったら悪いかな、困っているなら手伝ったほうがいいかな」という人のやさしさを逆手にとったテクニックではありますが、効果は絶大です。
難易度を上げ下げして本当の要求を承諾させる
交渉や説得の時に効果を発揮するテク
フット・イン・ザ・ドア・テクニック
一番の大きな要求を容認させるために、小さい要求から受け入れさせていく。
「1000円だけ貸してくれない?」
↓
「1000円ぐらいならいいよ」
↓
「ごめん、ちょっと不安であと 3000円貸してくれない?」
↓
「え、いいよ(仕方ないな……)」
ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック
最初に大きな要求をして断られた後に、本命の小さな要求を受け入れてもらう。
この商品、半額にならない?
↓
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↓
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↓
「(2割引ならいいか)いいですよ」
【出典】『相手の心が9割わかる 大人のブラック心理学』著:渋谷昌三
【書誌情報】
『相手の心が9割わかる 大人のブラック心理学』
著:渋谷昌三
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公開日:2024.12.28