「空の貴婦人」かつてのボーイングと今の飛行機のエンジンでは何が違う?【眠れなくなるほど面白い 図解 飛行機の話】

推力を大きくする2つの方法

より多く吸い込むか、より速く噴出するか

「空の貴婦人」と呼ばれたDC─8、「夢のジェット機」と謳(うた)われたボーイング727、「ミニジャンボ」の相性で親しまれた初期のボーイング737などの飛行機は、「バリバリバリ」と大きな音とともに離陸していました。

しかし、現在の飛行機はどちらかというと「ブーン」とプロペラ機に近い音を出して離陸しています。この違いは何でしょうか? まずジェット・エンジンと風船との違いを考えてみましょう。

風船は、ためた空気を噴出することにより力を得るので、風船の飛ぶ速度には関係ありません。一方、ジェット・エンジンは周りから空気を調達するため、吸い込む空気の速度が大きく影響します。つまり、吸い込んだ速度以上の速度で噴出しなければ仕事になりません

もちろん離陸の時には、ゼロからの出発なので問題ありません。しかし上空を時速800㎞で飛んでいる時は、それ以上の速度で噴出する必要があります。

空気を飛行速度以上に加速させなければ、実質的な力を得ることができません。

例えば、水を吸い込み勢いよく後方に出して水中を移動する乗り物があったとします。川の上流に向かって進む場合には、流れてくる水の速度以上の水を後方に出さなければ前に進みません。力を出すには水に加速度をつける、言い換えれば水に運動させなければならないのです。ジェット・エンジンも同じ理論です。

このことから推力の式は下図のようになります。推力を大きくするには、単位時間に吸い込む空気の量を増やす、または噴出速度を大きくする、二通りあることがわかります。

船は飛ぶ速度に関係ない

(風船を飛ばす力)=(単位時間あたりの空気の質量)×(噴出速度)

風船を飛ばす力は周りの空気に関係なく噴出速度だけで決まります。

ジェン・エンジンは飛行速度に影響を受ける

ジェット・エンジンの吸い込む空気の速度は飛行速度と同じなので吸い込んだ空気の速度以上の速度で噴出しないと空気に運動させたことにならないので有効となる推力とはなりません。

したがって、有効となる推力の式は以下のようになります。

(推力)=(単位時間あたりの空気の質量)×(噴出速度-飛行速度)

このように飛行速度を考慮した推力を正味推力(ネット・スラスト)といい、飛行速度を考慮しない推力、風船を飛ばす力の式と同じとなる推力のことを総推力(グロス・スラスト)といいます。

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 飛行機の話』著:中村 寛治

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 飛行機の話』
著:中村 寛治

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