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ボールをコントロールするトラップとは?【物理でわかるスポーツの話】

Text:望月修

ボールの中心を打ち抜くと回転せずに飛ぶ

 サッカーでボールを止めて自分が扱いやすいようにすることをトラップと言います。動いているボールを止めるにはボールの運動量を吸収することです。運動量とはボールの質量に速度を掛けて表す量です。

 プロ仕様5号ボールの重さは450gf(=0.45kgf)です。これが10m/s(36km/h)の速度で飛んできた場合、運動量は0.45× 10=4.5kgm/sという値となります。飛んでくるボールの速度を0にしたいのですから、ボールを止めるには運動量4.5kgm/sを0に変化させなければなりません。この運動量を脚で止めるわけなので、ボールの持つ運動量を脚で吸収することになります。

 サッカーシューズを履いた脚の重さがボールの重量の2倍あるとします。ボールと脚が接触する瞬間に、飛んでくるボール方向にその速度の半分で受けるよう脚を動かすと、ボールはピタリと止まります。このとき0,1秒で止めると脚の力は0.45×(0-10)/0.1=-45Nとなります。力の値にマイナス符号が付いているのはボールが飛んでくる方向と逆方向に力(約4.6kgのものを持つ力に相当)を掛けることを意味しています。

 また、1秒かけてボールを止めると-4.5Nとなり、0,1秒のときに比べて10分の1の力に減殺されます。

 つまり、脚にボールが長い時間接触するべく、ボールの飛んでくる方向に脚を動かしながらボールを止めると、脚にかかる負担を少なくすることができるわけです。

 胸に当ててボールを止める場合は、脚に比べて胸の部分は重いため、ボールが当たる瞬間に胸を引く速度は50分の1くらいの0.2m/sです。もちろん、ボールの接触時間を長くすると胸にかかる力が小さくなることは、以上の理論から当然です。


 次にコントロールの効く蹴り方を考えてみます。空気の抵抗は無視してください。

 上向きに思いっきり蹴ったボールは放物線の軌道で飛んで行きますが、もっとも遠くまで飛ばすには45°の角度で上方に蹴り上げなければなりません。蹴ったボールの初速度が22m/sであれば50m飛びます。

 蹴る脚の重さがボールの重量の倍で0.9kgあるとすると、脚のスピードはボールの速さの半分となって11m/sです。脚を振り上げてから蹴るまでの時間が0,1秒ほどであれば、このくらいの速度になります。脚をグルグル回せたとして1秒間に2回転半回せる速度です。

 ボールの中心を打ち抜くように蹴ると、ボールは回転せずに飛んでいきます。無回転でこのスピードで飛ぶと、ボールは周りの空気の流れの影響を受けて「ブレ球」と言われる軌道の定まらない飛び方になります。ゴールキーパーにはキャッチしにくい飛び方です。そのため、パスとして正確にプレーヤーのいるところに飛ばすためには、回転させる蹴り方がいいわけです。

 ボールの中心より下側を蹴ると、❷に示すようにボールの上部が手前に向かうように回転するバックスピンがかかります。バックスピンがかかると飛行機の翼のように上向きに力が作用して、放物線の最上部よりもさらに浮き上がるように上昇する軌道となります。ただし、最高点まで上がると落下しだすので放物線よりは遠くへは飛びません。

 ボールの中心より上側を蹴ると、前方へ回転するトップスピンとなります(❷)。このときは下向きに力がかかるため、放物線より低い軌道となって落下が早まります。もっとも飛ばない蹴り方です。

 したがって、それほど強くないバックスピンがかかるように蹴られれば、割と安定した放物線に
近い軌道で飛ばすことができる、というわけです。

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 物理でわかるスポーツの話』
著:望月修

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