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1年草植物の茎がパイプ状なワケは?【物理の話】

Text:長澤光晴

形状がつくり出す強さ

多くの植物の幹や茎は、円柱の形をしています。何十年、何百年と生きる種類の植物の幹は、中身までしっかりと詰まっています。ところが、1年で枯れてしまう1年草植物の茎は、硬いのは外の皮だけ、つまり、丸いパイプ状の構造をとることが多いのです。これはなぜでしょうか?

風が吹くと、植物の幹や茎には横から曲げようとする力が加わります。芽が出てから枯れるまでの時間が短い1年草植物は、少ない材料でより曲げに強い、パイプ状の構造にしていると考えられます。

曲げに対する強さをあらわす指標に断面係数(Z)があります。丸パイプの形状をしたものでは、次のように計算することができます。

断面係数:Z=π(R4-r4)/32R

Rはパイプの外半径、rはパイプの内半径です。

同じ分量の材料を使って、長さが同じ丸パイプと丸棒をつくったときで、この断面係数を比べてみましょう。丸パイプの外半径Rを5ミリメートル、丸パイプの内半径rを4ミリメートルとすれば、断面係数Zは約7.2立方ミリメートルです。一方、同じ量の材料を使って丸棒をつくると、丸棒の半径は3ミリメートルになるので、断面係数は約2.6立方メートルです。つまり、同じ量の材料を使うなら、丸棒にするよりも丸パイプ状にしたほうが、断面係数は約2.8倍大きくなります。

パイプ状の製品を身の回りに多く見かけることが多いのは、少ない材料で曲げる力に対して強度を高く保つことができるためです。たとえば、道端に立っている鉄筋コンクリート製の電信柱も、中は空になっています。

ただし、押しつぶすような力に対しては、パイプ状のものよりも中身のつまっている丸棒のほうが強いことは言うまでもありません。植物の幹や茎がどのような形状をとるかは、その植物の進化の過程や特性によります。

生物のつくる変わった形状として蜜蜂の巣に見られる、六角形を組み合わせたハニカム構造があります。ハニカムは、同じ量の材料で空間を広く取るのに有利な構造です。また、ハニカムの上下を板で挟んだサンドイッチ構造は高い強度を示すことから、軽量化が必要な航空機には欠かせなくなっています。

材料の形状を工夫して強度を上げようとするのは、建築物も同様です。建築用の鉄骨の断面がH型をしているのも、曲げに対して強くするためです。仮に、鉄骨を角材にして同じ強度を出そうとすれば、ビルの重量は非常に重くなってしまい、高層ビルを建てるどころの話ではなくなります。

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 物理の話』
著者:長澤光晴  日本文芸社刊

執筆者プロフィール
1967年生まれ。東京理科大学理工学部物理学科卒業。北海道大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了。東京電機大学工学部基礎教育センター・工学部環境化学科准教授、フランス国立極低温研究所(CRTBT)客員研究員(2001年)を経て、現在は東京電機大学工学部自然科学系列・工学研究科物質工学専攻教授。博士(理学)。日本物理学会所属。著書に『面白いほどよくわかる物理』(日本文芸社)がある。


水洗トイレ・冷蔵庫からジェトコースター、スケート、虹、オーロラ、飛行機、人工衛星・GPSまで身の回りにある物や現象のしくみが面白いほどよくわかる!文系の人でも理解できるよう、とにかくわかりやすく、またとにかく図を使ってうまく説明しました! 本書で扱ったテーマは、身の回りにそれとなくある物や現象です。それらの仕組みを知らなくても生きてはいけますが、知っていればなかなか楽しく暮らしていける、そんなものばかりです。物理の醍醐味は、いろいろな現象を少数の法則や定理そして少しの仮定で取り扱うことができるところにあると思います。

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