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祈りの言葉であると同時に女尊【般若心経】

Text:宮坂宥洪

「仏を生む」仏母でもある

般若心の「心」は、ここでは「マントラ」を指します。「はじめに」でも述べたとおり、マントラは「祈りの言葉」のことで、今日では「真言(しんごん)」と訳されています。

般若心経は、「般若波羅蜜多のマントラ(真言)を説くお経」ということになります。

さらに、ここにはもう一つ、込められた意味があります。「プラジュニャー・パーラミター」は女性名詞です。これは祈りの言葉であると同時に、実は「女尊(女性の聖なるもの)」の名前であり、仏母(= 菩薩(ぼさつ)、つまり「仏陀(お釈迦様、悟った人)の母」を指しています。

般若波羅蜜多(マントラ)が仏母という女尊だというと、奇異に感じる人もいるでしょうが、インドでは古くから、風、雨、雷などの自然現象はもちろん、言葉や時間や法則といった抽象的なものも、尊ぶべきものはすべて神格化してきました。

このあと述べるように、現在、最も広まっているのは玄奘(げんじょう)訳の般若心経ですが、後代に訳された般若心経には、経題を「仏説聖仏母般若波羅蜜多経」として、般若波羅蜜多が仏母だと明記したものもあります。チベット版の般若心経でも、経題に「女尊=仏母」という言葉が記されています。ここには、般若波羅蜜多という「智慧の力」で仏が生まれるという意味が込められているのです。

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 般若心経』
著:宮坂宥洪 日本文芸社刊

執筆者プロフィール
真言宗の僧、仏教学者。1950年、長野県岡谷市生まれ。高野山大学仏教学科卒。名古屋大学大学院在学中、文部省国際交流制度でインド・プネー大学に留学し、哲学博士の学位取得。岡谷市の真言宗智山派照光寺住職。

今、人気の空海(真言宗)をはじめ、最澄の天台宗、臨済宗、曹洞宗で読まれている「般若心経」。写経を中心に長く人気を博している般若心経だが、まだまだ「難しい」「よくわからない」といったイメージを持たれることも多い。今回は、現代語訳をしっかりと解説しつつも、私たちの実生活と結びつけながら、その思想や意図するところをわかりやすく解き明かしていく。