仏説摩訶般若波羅蜜多心経(ぶっせつまかはんにゃはらみたしんぎょう)
一行目は経題(きょうだい)、つまりお経のタイトルです。実は、般若心経のサンスクリット原典の冒頭に題はありません。インドの古い書物では、冒頭に題は書かず、最後に「以上で〜終わる」と述べるのが一般的で、しいていえばこれが題にあたります。
般若心経の原典の最後には、「以上で『般若波羅蜜多心』終わる」とあり、それを冒頭に持ってきたのがこの経題です。流布本には、題を「般若心経」や「心経」としたものもあります。
「心」はマントラ(真言)を意味している
真言宗では、頭に「仏説摩訶」をつけるのが習わしです。仏説は「お釈迦様の教え」、摩訶は「大きい」という意味で、「般若波羅蜜多心」の偉大さを強調するために添えられた言葉です。「(偉大な)般若波羅蜜多心」の般若は智慧、波羅蜜多は完成を意味するので、「智慧の完成の心」と訳すこともできます。しかし、音写語を使ってあるのは、これが「心」にかかる固有名詞だからです。ここはそのまま、「般若波羅蜜多という心」と読みます。
ここでいう心は、心情や真髄(しんずい)などではなく、「心咒(しんじゅ)」を意味します。「咒(しゅ)」は般若心経の本文にも出てきます。呪の異体字ですが、般若心経では呪いの意味はなく、「マントラ」の漢訳です。マントラとは「祈りの言葉」のことで、現在は「真言」と訳されています。玄奘の時代には、この訳語が定まっておらず、「咒」や「心咒」を用いていたのです。
つまり、この経題は、「般若波羅蜜多のマントラ(真言)を説いたお経」という意味になります。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 般若心経』
著:宮坂宥洪 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
真言宗の僧、仏教学者。1950年、長野県岡谷市生まれ。高野山大学仏教学科卒。名古屋大学大学院在学中、文部省国際交流制度でインド・プネー大学に留学し、哲学博士の学位取得。岡谷市の真言宗智山派照光寺住職。
【書誌情報】
今、人気の空海(真言宗)をはじめ、最澄の天台宗、臨済宗、曹洞宗で読まれている「般若心経」。写経を中心に長く人気を博している般若心経だが、まだまだ「難しい」「よくわからない」といったイメージを持たれることも多い。今回は、現代語訳をしっかりと解説しつつも、私たちの実生活と結びつけながら、その思想や意図するところをわかりやすく解き明かしていく。
公開日:2022.01.09