不増不減(ふぞうふげん)
六不の最後は「不増不減」です。「増えもせず減りもしない」ということです(ただし、原典では不減不増の順)。
これを、たとえば「自分のお金が増えたり減ったりしても、流通しているお金は一定量であるから一喜一憂することはない」などとする解説書もあります。しかし、これは2階からの視点で解釈しているにすぎません。ここまでの説明でおわかりのとおり、実際には「不増不減」も、観自在菩薩が観た4階からのヴィジョンを伝えているのです。
問題はそこにあるものを「どう見るか」
般若心経をさまざまな観点から解釈し、「何ごとにもこだわるな」といった処世訓を引き出すことも可能です。ほとんどの解説書はそのようなものですが、それはあくまでも2階の世間レベルの話です。
「その上に3階、4階がある。この見晴らしのいいところに昇ってきてごらん」という語りかけが般若心経です。
このパートのはじめ、舎利子への呼びかけのあとの原文には「ここにおいて」という言葉があります。「ここ」とは観自在菩薩のいる4階(に象徴される次元)という意味でしょう。その大いなるメッセージを読み取りたいものです。
その観点では、2階や3階でめまぐるしく起きている「生滅垢浄増減」も、「不生不滅不垢不浄不増不減」となるのです。
ただし、4階は階下を含みます。自己も諸法も消滅したわけではなく、そこにあります。問題はそれらを「どう見るか」、つまり観点とヴィジョンなのです
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 般若心経』
著:宮坂宥洪 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
真言宗の僧、仏教学者。1950年、長野県岡谷市生まれ。高野山大学仏教学科卒。名古屋大学大学院在学中、文部省国際交流制度でインド・プネー大学に留学し、哲学博士の学位取得。岡谷市の真言宗智山派照光寺住職。
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 般若心経』
今、人気の空海(真言宗)をはじめ、最澄の天台宗、臨済宗、曹洞宗で読まれている「般若心経」。写経を中心に長く人気を博している般若心経だが、まだまだ「難しい」「よくわからない」といったイメージを持たれることも多い。今回は、現代語訳をしっかりと解説しつつも、私たちの実生活と結びつけながら、その思想や意図するところをわかりやすく解き明かしていく。
公開日:2022.01.23