一定の年収を得ると幸福度に変化はない?
年収と幸福に関する研究はいろいろあります。有名なのはプリンストン大学のダニエル・カーネマン教授(2002年行動経済学分野で初のノーベル経済学賞受賞)や、同じ大学のアンガス・ディートン教授(05年行動経済学分野でノーベル経済学賞受賞)の研究でしょう。
彼らが辿りついた「年収と幸福感」における結論は「幸福感は、年収が7万5千ドルまでは、収入に比例して増加するが、それを超えると比例しなくなる」というものでした。これは1ドル110円換算だと、日本円では825万円程度です。
収入の増加が、ある時点を超えると、自由に消費でき、旅行にも行けるといった生活満足度は向上しても、幸福感は上がらない―― ということを、最初に提唱したのは、1974年の米国の経済学者リチャード・イースタリン教授の研究でした。
幸福のパラドックス」と呼ばれるこの現象を、1人当たりGDPの成長率と、各国国民の幸福の度合いでとらえ、明らかにしたのです。いずれの研究も「幸福」の定義は難しいものの、同様の結論に至っているわけです。
仕事で稼ぐほど、ストレスや家族との関係の変化も影響するからなのですが、経済学の「限界効用逓減の法則」との関連も大きいでしょう。一杯目のビールは美味しくても、2、3杯目になると美味しさの効用も逓減します。豊かな生活ができるようになっても次第にそれに慣れれば幸福感は小さくなるのです。
宝くじで1億円当たると当座は嬉しくても、やがて幸福感も薄れます。心理学の「ヘドニック・トレッドミル現象」です。富裕層に「幸福感」を尋ねると「友人家族との語らい」や「安らかな休息」といった平凡な日常生活を挙げるのも定番なのです。
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 経済の話』
監修:神樹兵輔
日本の社会をとりまく環境は日々変化を続け、日本経済を知ることはイコール「世界や社会の今」を見ることにもなる。行動経済学から、原価のしくみ、生活に密着した経済の疑問や問題点など、いま知っておきたい経済の基本を、身近なテーマとともに図とイラストでわかるやすく解説、読み解く一冊。
公開日:2021.04.25