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建築物は「完成」ではなく「竣工」というはなぜ?「建物は住み続けることで完成する」という日本的考え方【建築の話】

メ建築儀礼には意味がある

「竣工」とは、建築工事が終わったことを意味する言葉です。だったら完成と同じではないかと思うかもしれませんが、それは違います。建物は住み続けることで完成に近づいていくと考える文化が、日本にはあるからです。

たとえば岐阜県の飛騨高山にある吉島家住宅(国指定重要文化財)をご存知でしょうか。この古民家の魅力の一つが柱、梁、縁板の光沢です。この光沢は竣工時からあったものではありません。

柱や梁に塗られた滓漆は、最初は黄色が目立ち、落ち着いた色調ではなかったはずです。住む人が何代にも渡って乾拭きし続けたことで、現在の飴色の光沢(拭き色)がうまれました。建築にとっての竣工は完成ではなく、むしろ美しさの始まりなのです。

この考え方は建築以外にも見られます。その一例が、千利休の好んだ楽茶碗です。初代・長次郎はもともと瓦師でした。彼の窯には天井がなく、高温を持続できません。そのためガラス質の長石が溶け切らないで、黒褐色の艶つやのないザラッとした表面(カセ肌)になるのです。

しかし、茶筅で表面が削られると茶渋がつき、さらに手の脂が染み込むことで、赤サビのようなムラが味わいある肌に変化します。

つくり手とつかい手の時間をかけたつながりが、「わびさび」をうむ条件だったのです。竣工という言葉には、こうした変化を楽しみ、時間をかけて完成させる文化があるといえます。

現代では、合板に薄い銘木をコーティングする手法も登場しています。こうした建築物は、工事終了で完成といえるかもしれません。手入れが少なく楽でしょう。どちらがよいかは、住み手の考え方次第でしょう。

出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 建築の話』著/スタジオワーク

【書誌情報】
『図解 建築の話』
著者:スタジオワーク

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