主従関係を視覚化した書院造
近世、江戸時代に成立した武士の住まいを書院造と呼びます。戦いを本業とする武士にとって、何より重要なのは主従関係でした。その考え方は建築にも反映されています。
まず最優先されたのは、主人の威光を印象づけることです。中世までの武家住宅では別々にあった床の間、違い棚、付書院の3点が、近世には一体化され、座敷飾りとして主人の背後に配置されたのはそのためでした。そうすることで主人の尊厳を高めたのです。書院造は、上下関係のある武士たちが同席する場でもあります。
中世まで、主人は中央の部屋で庭に向かって座り、家臣たちと対面していました。しかし、もっと大勢の家臣と謁見する必要がある場合、これでは家臣同士の序列が示せません。
そこで書院造では庭に沿って3、4部屋を並べ、座敷飾りのある上段の間、下段の間、三の間と部屋を序列化するようになりました。
意外かもしれませんが、書院造の原型は、ワンルーム型の寝殿造だとされています。数百年をかけて部屋が分割され、まるで違う姿になったのです。部屋を隔て方に注目してください。
書院造では、部屋の区切りは壁ではなく、襖や障子戸です。これを開放すれば上段の間と下段の間が分断されず、主従関係を可視化できます。
しかし、すべての建具を外せば、広間型の寝殿造にそっくりです。もう一つの違いは天井です。寝殿造になかった天井を設け、床板に畳を敷きつめたことで、書院造は印象をガラリとかえました。3点セットの座敷飾り、天井と畳のある部屋の並び、さらに玄関の存在が、書院造を見分けるポイントです。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 建築の話』著/スタジオワーク
【書誌情報】
『図解 建築の話』
著者:スタジオワーク
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公開日:2021.11.08
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