今日の住宅には武家屋敷の格式が残っている
サラリーマンという存在が日本にうまれたのは、明治時代です。彼らはそれまでなかった新しい市民層でした。毎日職場に通勤するライフスタイルに、職場(店や仕事場)と住居が一体になった町家は不向きです。新しい市民たちが選んだのは、住まい専用の武家住宅でした。
その名残りは現在も残っています。たとえば家の前に門を構え、玄関や床の間をつくるのは、かつては武士にだけ許された格式でした。庭を塀で囲むのも町家にはあまり見られないスタイルです。
サラリーマンが最初に利用した住宅は玄関から6畳、8畳をとおり抜け、床の間のある10畳に至ることで格式を持たせる、武家の住まい方そのものでした。
明治末期になると、ここに中廊下がつけられ、各部屋を独立的につかうことが可能になります。ただし、部屋の仕切りは襖ふすまのまま。冠婚葬祭を自宅で行う習慣が残っていたので、壁にはできなかったのです。
そして、当時憧れの的だった洋館が玄関脇に設けられるようになります。この中廊下式の和洋折衷住宅は大正から昭和初期に大流行し、昭和40年代まで建てられ続けました。
現在のような居間中心型の住宅が一般化したのは、高度経済成長期です。当時テレビで人気だったアメリカのホームドラマの影響を受け、同時期に登場したハウスメーカー各社がこの流れを後押ししました。
生活家電の普及した家庭に、もはや女中部屋(お手伝いさんの居室)は不要です。さらに縁側を削り、憧れの広いリビングルームができあがりました。そしてイスに座って食事をし、ベッドで眠るスタイルが日本にも定着したのです。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 建築の話』著/スタジオワーク
【書誌情報】
『図解 建築の話』
著者:スタジオワーク
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公開日:2021.11.09
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