~開放血管系と閉鎖血管系~
夏になると、道端で無残に潰れてしまった昆虫の姿をときおり見かけます。車にひかれてしまったのか、人間に踏みつぶされたのか……。かわいそうにと思いつつ死骸を見ると……。出血がない!! よくよく思い出してみれば、イモ虫などがつぶれた時も白や黄色っぽい体液は出るものの、出血をしているのは見たことがない。昆虫には血液はないのでしょうか。
人間を含む脊椎動物は、心臓から出た血液が、動脈から毛細血管を経て静脈をとおり心臓に戻る、閉じた循環系を持っています。この閉鎖血管系を流れる血液によって、各組織にエネルギーの元となる有機物と酸素を運搬することができます。血液の色が赤いのは、酸素を運搬するタンパク質ヘモグロビンが赤いためです。
一方、昆虫の場合は、開放血管系といって閉じた循環系を持たないため、血液とリンパ液の区別もなく血リンパと呼ばれる体液が、心臓が鼓動すると、体内の隙間(血体腔)にじわーと広がっていきます。この循環の悪さにより有機物が効率よく行き届かないため、それが昆虫をはじめとする開放血管系の動物が大きくなれない理由の一つと考えられています。
血液の大切な役割の一つは、酸素を各組織に運搬することです。閉じた血管系を持たない昆虫には、血管のように気管が全身にはりめぐらされています。アゲハ蝶の幼虫を観察すると、体の側面に、気門と呼ばれるいくつか楕円の穴が開いているのを見つけられます。昆虫は気門から直接酸素を取り入れ、気管を通じて各組織に運ぶのです。二酸化炭素の排出も、同じように気管を通じて行います。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 生物の話』
監修:廣澤瑞子 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
横浜生まれ。東京大学農学部農芸化学科卒業。1996年、東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、米イリノイ大学シカゴ校およびドイツマックスプランク生物物理化学研究所の博士研究員を経て、現在は東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻細胞生化学研究室に助教として在籍。著書に『理科のおさらい 生物』(自由国民社)がある。
「人間は何歳まで生きられる?」「iPS細胞で薄毛を救う?」「三毛猫はなぜメスばかり?」「黒い花は世に存在しない?」ーー生命の誕生・進化から、動物、植物、ヒトの生態、最先端の医療・地球環境、未来まで、生物学でひもとく60のナゾとフシギ!知れば知るほど面白い!
公開日:2023.05.22