二大文明の地を含む壮大なスケール
聖書協会共同訳『聖書』(1987年版・2018年版)の巻末に記された「聖書について」では、旧約聖書に収録された物語群の舞台について「東地中海の諸国」と表現しています。
これは学問的には正確かもしれませんが、誤解を招く表現に思えます。地中海沿岸地域のみで話が展開したような印象を与えるからです。
実際には、より広大な地域が舞台となっています。東はエジプト、西はチグリス・ユーフラテス川流域まで及ぶのです。現代の地域区分でいえば、中東と呼ばれている地域とほぼ重なります。
興味深いことに、この範囲には四大文明のうちの2つ(エジプト文明・メソポタミア文明)が含まれています。まさに古代文明発祥の地といえるでしょう。
旧約聖書の創世記を読むと、この 二大文明と密接な関わりがあったことがわかります。
たとえば、アダムとエバが住んだ楽園エデンはチグリス・ユーフラテス川の流域にあるとされていますし、バベルの塔の話はメソポタミア文明の発祥と関わります。また、イスラエル民族の父祖と呼ばれるアブラハムのひ孫ヨセフは、エジプトでファラオ(王)に次ぐ地位に就きます。
創世記に次ぐ出エジプト記では、エジプトからの脱出が語られます。ヨセフの時代には優遇されていたイスラエルの民も、時代が降ると奴隷のように酷使されるようになっていたのです。神の命により彼らを救い出したのがモーセです。
モーセに率いられた人々はシナイ半島を南下し、シナイ山に至ります。さらにそこから北上してヨルダン川まで40年かけて旅をします。
モーセの後を継いだヨシュアはヨルダン川を渡り、神から約束の地とされたカナン(地中海と死海・ガリラヤ湖にはさまれた地域)へと人々を導きます(ヨシュア記・民数記)。
ダビデ、ソロモンという賢王の出現により、エルサレムは一大都市となり壮麗な神殿が建てられますが、アッシリアや新バビロニアの侵略を受けます。紀元前597年には王族をはじめ、多くの人がバビロニアへ連行されるという悲劇、バビロン捕囚が起こっています。
紀元前538年頃には、エルサレムへの帰還がかないますが、その後もパレスチナは外憂が続きます。
紀元前332年からは、アレクサンドロス大王とその後継者の支配を受け、紀元前63年からは、ローマ帝国の属領とされました。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 聖書』
著者:渋谷伸博 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
1960年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。宗教史研究家。よみうりカルチャーなどで神話をテーマとした講座も開講している。著書多数。近著に『一生に一度は参拝したい全国の神社めぐり』『聖地鉄道めぐり』『神々だけに許された地 秘境神社めぐり』『歴史さんぽ東京の神社・お寺めぐり』(いずれもジー・ビー)、『あなたの知らない般若心経』(宮坂宥洪監修、洋泉社新書)、『諸国神社 一宮・二宮・三宮』(山川出版社)などがある。
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公開日:2022.06.02