「神の前に平等」は多民族国家ローマ帝国にはピッタリの宗教。
神話の神々を奉たてまつって国家宗教とするローマ帝国は、元々、異教には寛容であり、ミトラ教など東方の神秘的な宗教も流行したことがあった。
しかし、キリスト教は一神教であり、偶像崇拝や皇帝崇拝も拒否する宗教だったので、皇帝ネロ以来、度々迫害を受けた。特に皇帝を神とする専制君主制を始めたディオクレティアヌス帝の迫害は一層強化されたが、最後の迫害となった。
313年、コンスタンティヌス帝が、いかなる宗教の信仰も認めるという「宗教寛容令」(ミラノの勅令)(ちょくれい)を発し、キリスト教もその一つとして公認されたのである。迫害は終わり、教会は表立って活動できるようになる。
だが、イエスの刑死以来、すでに三百年を経過し、教義の理解や儀式の在り方でも解釈が分かれ、信者内部でも対立が生じていた。そこでコンスタンティヌス帝自ら「ニケーア公会議」を主催し、教義の統一を図った。
結果、イエス=キリストは神の子であり、神性を有するという考えが正当であり、人の子とする考えは異端であると断じられることになった。その後も教義を巡る争いは際限なく繰り返されるのであるが、いずれにしろ、ローマ帝国の国教とされ、国家宗教となるのである。
これは宗教問題に限らず、領土拡大が進み、多くの民族を抱え込むようになったローマ帝国が、いかにして帝国全体の安定的支配を実現するか、経営上の根本命題になっていた。ラテン系のローマ人だけではない。ギリシア人、ヘブライ人等、多民族の集合体になっていたのである。
「神の前では誰も皆平等」という信仰は格好の思想となったのであった。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 世界史』
著:鈴木 旭 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
昭和22年6月、山形県天童市に生を受ける。法政大学第一文学部中退。地理学、史学専攻。高校が電子工業高校だったためか、理工系的発想で史学を論じる。手始めに佐治芳彦氏と共に「超古代文化論」で縄文文化論を再構成し、独自のピラミッド研究から環太平洋学会に所属して黒又山(秋田県)の総合調査を実施する。以後、環太平洋諸国諸地域を踏査。G・ハンコック氏と共に与那国島(沖縄県)の海底遺跡調査。新発見で話題となる。本業の歴史ノンフイクション作家として、「歴史群像」(学研)創刊に携わって以来、「歴史読本」(新人物往来社)、「歴史街道」(PHP)、「歴史法廷」(世界文化社)、「歴史eye」(日本文芸社)で精力的に執筆、活躍し、『うつけ信長』で「第1回歴史群像大賞」を受賞。「面白いほどよくわかる」シリーズ『日本史』『世界史』『戦国史』『古代日本史』はロングセラーとなる(すべて日本文芸社)。他に『明治維新とは何だったのか?』(日本時事評論社)、『本間光丘』(ダイヤモンド社)など著書多数。歴史コメンテーターとして各種テレビ番組にも出演。幅広い知識と広い視野に立った史論が度々話題となる。NPO法人八潮ハーモニー理事長として地域文化活動でも活躍中。行動する歴史作家である。
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公開日:2021.11.25