記紀編纂期には知られていなかったから
神社の数を正確に数えるのは難しいのですが、稲荷神と八幡神を祀る神社が圧倒的に多いということは異論がないでしょう。それにも関わらず、稲荷神も八幡神も『古事記』『日本書紀』には登場しません。なぜでしょうか。理由は簡単です。『古事記』『日本書紀』の編纂者がそれらの神様を知らなかったからです。稲荷信仰は、京都南部の伏見にある稲荷山を根本聖地としています。
『山城国風土記』によれば、昔、秦氏の先祖の秦伊呂巨が餅を的にして矢を射たところ、餅の的は白い鳥に変じて稲荷山に飛び去ってしまい、そこに稲が生えたといいます。ここに創建されたのが、稲荷信仰の総本宮である伏見稲荷大社です。伏見稲荷大社の記録によれば、この事件が起こったのは711(和銅4)年だとします。この年は元明天皇が太安万侶に『古事記』の編纂を命じた年です。仮にこの事件が事実だとしても、太安万侶の耳には届いていなかったでしょう。
一方、八幡神の神霊が大分県の宇佐に鎮座したのは神代に遡るとされ、朝廷にその名が知られるようになるのは、その神威で隼人の乱を鎮めた720(養老4)年以降のことです。この年は舎人親王らが『日本書紀』を元正天皇に撰上(編纂した本を献上すること)した時期に当たります。なお、『古事記』『日本書紀』は神武天皇が東征の途上で宇佐に留まったことを記しています。宇沙都比古・宇沙都比売が宮をつくって天皇に奉ったとありますが、この宇沙都比古が宇佐神宮を奉斎した宇佐氏の祖先です。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 神道』監/渋谷申博
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 神道』
著:渋谷 申博
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公開日:2023.01.20