教義はなくても体験で敬神を伝える
第1項でも述べたように、神道には開祖と呼ばれる存在がありません。したがって、開祖の教えを記した聖典はありません。「古事記」「日本書紀」が聖典に準じるものとして扱われることもありますが、この2書は歴史書として編纂されたものであって、神道の教理などが記されているわけではありません。
仏教やキリスト教は聖典に記された教義を根幹として堅牢な教理体系をつくり出してきましたが、神道は教義が占めるべき核心部分が中空、あるいは不可視となっているのです。平安末期の歌人の西行が伊勢神宮で詠んだとされる歌に「何事のおわしますをば知らねどもかたじけなさに涙こぼるる」というものがあります。何が祀られているのかわからないけれど、涙が流れるほどありがたいというのです。
正体がわからないものをありがたいと思う心情は、日本人にはごく当たり前な心情ですが、他宗の信徒、とくに一神教の信徒にはわからないことでしょう。こうした差異は、神道と他宗教とでは信仰のありようが根本的に違うことに由来しています。仏教やキリスト教は聖典に記された教義を伝え広めることが重視されますが、神道では神道的価値観を伝えることが重視されます。
そして、神道的価値観の伝授に用いられるのが、神話や神社と祭り(儀礼)なのです。これらを知り、体験することを通して、神道的価値観が受け継がれてきたのです。ただ神道的価値観には、地域や時代によって変化があります。けれども、こうした曖昧さが神道の懐の深さを生んでいるという面もあるのです。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 神道』監/渋谷申博
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 神道』
著:渋谷 申博
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公開日:2023.01.03