3月5日から二十四節気は啓蟄(けいちつ)です。季節の移り変わりを植物で楽しみましょう。
啓蟄 節の話
冬ごもりをしていた虫や動物が、春の陽気に誘われて目覚める頃です。この時分になると朗らかな陽射しを浴びた小さな草花が力いっぱいに花を咲かせ、だんだんと賑やかになってきます。
子どもの頃、よく空き地で花を摘みました。一番摘んだ花は何か、といったらタンポポかもしれません。黄色い花はもちろんのこと、綿毛になった姿も愛くるしいこの花が、実はすばらしい薬草だと知ったのはだいぶ大人になってからです。
タンポポはキク科タンポポ属。原産地は中国や日本、ヨーロッパなど。日本での代表的な品種には、関東地方に多く生息するといわれるカントウタンポポと、ヨーロッパからの外来種、セイヨウタンポポがあります。大きな違いは総苞外片(そうほうがいへん)という、後ろの萼(がく)のようなものの向き。花弁に沿うように立ち上がったものがカントウタンポポ、下向きにそり返ったものがセイヨウタンポポです。現在、目にするタンポポのほとんどの総苞外片はそり返っていますが、セイヨウタンポポとカントウタンポポがすでに自然に交配しているため、雑種もかなり多く、総苞外片だけではどちらか判断できないという説もあります。
可愛らいいタンポポは実はすばらしい薬草。食用花としても歴史あり
薬草としてのタンポポはというと、その活用法は多岐に渡っています。中国では東洋産のモウコタンポポを蒲公英(ほこうえい)という名の生薬として、全草を利尿や肝臓のために用い、ヨーロッパではダンデライオンの名で、葉はむくみの改善や利尿として、根は肝臓、胆のうの強壮や浄化、疲労回復などに利用されてきました。ダンデライオンの根を焙煎したものは日本ではタンポポコーヒーと呼ばれ、カフェインを含まず、妊娠中や授乳期にも飲めるお茶として知られています。
食用花としての歴史も古くからあるタンポポ。日本では、「ふじな」や「たな」と呼ばれ、江戸時代にはすでにタンポポの花を食べていたそう。花以外に柔らかな若葉も食べられます。
春の山野草には苦みのあるものが多いですが、この苦みには解毒作用があることをご存じの方も多いでしょう。早春のタンポポの葉も例に漏れず、ほどよい苦みがあります。たっぷりのトマトソースとチーズにタンポポの葉と花を散らしたタンポポピザは、赤、緑、黄色と見た目にも美しく、一口食べれば早春の香りが体の中を吹き抜けていくような心地よさです。
〈禁忌〉ダンデライオンは、胆のう閉鎖、重篤な胆のう炎、腸閉塞、キク科アレルギーの方は使用を避けてください。苦みが強く、胃酸過多になる可能性があります。
【暮らしのアイデア】水苔と山苔をあしらって芽吹きの野山を再現
春の到来を感じさせてくれるミニ球根は身近に飾りたい植物の一つ。
水苔と山苔を使って山の芽吹きを部屋で楽しみましょう。足つきグラスは器自体の背が高いので、テラリウムのように器の中に小さな球根を活けるとよいバランスに。マグカップタイプの器には茎が長めの球根を活け、カップの縁に寄りかからせて。そのままだと倒れてしまう茎が安定します。
【暮らしのアイデア】みずみずしい球根のシンプルな器活け
ミニ球根は苔を入れずに水だけで活けても透明感があって素敵です。
水の量は球根が浸からない程度にして毎日替えましょう。水替え時の注意点は、根が傷まないように必要以上に根をいじらないこと。シャーレのような浅い器に2~3個斜めに置いたり、小さな四角い器に違う種類の球根を並べたり。色別や形別など、自由に組み合わせて春の窓辺を飾りましょう。
【書誌情報】
『二十四節気 暦のレシピ』
猪飼牧子・清水美由紀 著
古くから季節を表す言葉「二十四節気 七十二候」をテーマに、季節の移り変わりを花や植物で感じながら、ものづくりの楽しみを提案。小さな変化を繰り返しながら、季節とともに四季をたどっていく植物。その時季の植物をアレンジメントや料理やおやつに生かしたり、心と体を健やかするハーブやアロマを活用したり、ちょっとしたおもてなしの小物をつくったり。二十四節気を植物とものづくりで体感できるアイデアとレシピ120を紹介します。
関連サイト
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公開日:2024.03.04