成熟のときに出る植物ホルモンのエチレンの力
バナナは輸入時、濃い緑色をしています。黄色のバナナには産地にいる農業害虫が寄生しやすく、そのようなバナナは植物検疫法で輸入が禁止されています。緑色の状態では害虫は寄生しないので、その状態で陸揚げされますが、このままでは食べられません。
そこで追熟(ついじゅく)という処理によって甘く食べ頃の黄色のバナナとして出荷されます。追熟にはエチレンガスが使われます。
エチレンは化学式が単純で、この分子をたくさんつなげる重合反応によってポリエチレンを作ることができます。
このようにエチレンは身近な有機物ですが、リンゴなどの果実もエチレンガスを出しています。そのためリンゴのそばにバナナを置いておくと、バナナの成熟が進みます。
エチレンは裸子植物や被子植物などの高等植物で生成される植物ホルモンのひとつで、植物の一生にさまざまな影響を及ぼしています。
エチレンの作用として、果実などの成長、老化の促進が有名ですが、ほかにも葉や花弁を落とす、発芽の促進や抑制、茎の伸長や太くする作用などがあります。
落葉は葉で作られるエチレンが直接かかわっていますが、葉の老化を促進させ、落葉する前に離層(葉の基部にできる細胞層)が形成されるのは、オーキシンという植物ホルモンの作用です。
植物のライフサイクルにかかわる植物ホルモンは10種ほどあり、たとえばレタスなどの長日植物は、ジベレリンという植物ホルモンで、つぼみをつくったり、花を咲かせたりします。また、ジベレリン処理をすると種なしブドウができることは有名です。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 植物の話』
監修:稲垣栄洋 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
植物学者・静岡大学教授。1993年、岡山大学大学院農学研究科(当時)修了。農学博士。専攻は雑草生態学。1993年農林水産省入省。1995年静岡県入庁、農林技術研究所などを経て、2013年より静岡大学大学院教授。研究分野は農業生態学、雑草科学。
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公開日:2023.04.16