夜も休まず、エネルギーを作り続ける
人が生きていくためには、いろいろな食品から栄養を取り込まねばなりません。炭水化物、脂質、たんぱく質は3大栄養素といわれ、どんな生物にも必要です。このうち炭水化物(糖質)は、いちばん手軽にエネルギーが得られる栄養素です。
では糖からどのようにエネルギーが得られるのでしょうか。糖はそのままではエネルギーにはなりません。いったん体の中で酸化され、ATP(アデノシン三リン酸)という物質に変換されます。酸化には酸素を体内に取り込む必要があります。これは呼吸によって行われます。ATPはエネルギーの貯蔵や放出、あるいは生体に必要な物質の合成などに重要な役割を果たしています。
このようにATPは、私たちが使うお金に似た働きをしています。そのためATPは、生物の「生体のエネルギー通貨」ともよばれています。
植物は昼間、空気中の二酸化炭素を取り込んで、糖質などの栄養分を作り、酸素を吐き出しています。
これは光合成といいますが、酸素を取り込んで二酸化炭素を吐き出す、動物と同じような呼吸はしているのでしょうか。植物は呼吸もしています。植物は光合成でATPをつくり、ATPはほかに呼吸によってもつくられ、エネルギーを得るからです。
植物が成長するためには、呼吸が必要なわけですが、ATP生産のための糖質は自分で作っていますから、それを取り込む必要はありません。
では、いつ呼吸しているのか。昼間は光合成が勝っていますが、昼間も呼吸しています。夜間は光がないので光合成はできませんが、呼吸のほうが勝っています。こうして昼間の光合成で作った栄養分(糖)から必要なATPを生産しているのです。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 植物の話』
監修:稲垣栄洋 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
植物学者・静岡大学教授。1993年、岡山大学大学院農学研究科(当時)修了。農学博士。専攻は雑草生態学。1993年農林水産省入省。1995年静岡県入庁、農林技術研究所などを経て、2013年より静岡大学大学院教授。研究分野は農業生態学、雑草科学。
大ヒット「眠れなくなるほど面白い」図解シリーズに、【植物学】が登場。
色仕掛け、数学の応用など、生き残りをかけた植物のたくみな戦略を徹底解説。
図とイラストで、ひとめで植物の生態としくみがわかります。
読めば、「ふだん見かけるあの植物に、そんな秘密が!?」と驚くはず。
「花の女王はバラ、では雑草の女王は?」
「なぜ夏の木陰はヒンヤリするのか?」
「昆虫と植物は必ずギブ&テイクの関係なのか?」
「植物は数学を知っている?」
「じつは、植物によって光合成のしかたが違う?」
など身近な疑問から、花粉を運ばせるための昆虫だましテクニック、一歩踏み込んだ光合成のしくみまでわかりやすく紹介します。
公開日:2023.04.23