信者個人の道徳規範と宗派ごとの決まりごと
「戒律」という言葉は、もともと仏教用語です。「戒」は信者個人が自発的に判断すべき道徳規範であるのに対し、「律」は教団・宗派ごとに守るべき規則をいいます。
「戒」を破れば、他から非難はされますが具体的な罰はありません。一方、「律」は違反すれば罰則があります。
「戒」のうち、最も基本的なものが以下にあげる「五戒」です。
●不殺生戒(ふせっしょうかい)/生き物を殺してはいけない
●不偸盗戒(ふちゅうとうかい)/人のものを盗んではいけない
●不邪淫戒(ふじゃいんかい)/不倫や浮気をしてはいけない
●不妄語戒(ふもうごかい)/嘘をついてはいけない
●不飲酒戒(ふおんじゅかい)/お酒を飲んではいけない
この「五戒」あくまで自発的なものですから、これらを守るには自分を厳しく律する必要があます。自分に甘くしようと思えばいくらでも甘くできてしまうわけですが、それでは救われないでしょう。
また、在家信者は「五戒」に加えて、「豪華な寝床で寝ない、身を飾らない、歌や踊りを視聴しない、間食をしない」などといった「八斎戒(はっさいかい)」も、月に一度実践することが定められています。
とはいえ、仏教の布教の過程で好き勝手にふるまう信者が出てくることもあります。そういった信者の行動を抑制するために、罰則つきの「律」がつくられていったのです。
大乗仏教と上座部仏教、あるいは宗派ごとに違いはあるものの、仏教信者の守るべき戒律は現在でも実践されています。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の宗教』
監修:星川啓慈 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
1956年生まれ。1984年、筑波大学大学院哲学・思想研究科博士課程単位取得退学。1990年、日本宗教学会賞受賞。現在、大正大学文学部教授。博士(文学)。専門は宗教学・宗教哲学。主な著書に、『言語ゲームとしての宗教』(勁草書房、1997年)、『宗教と〈他〉なるもの』(春秋社、2011年)、『宗教哲学論考』(明石書店、2017年)、『増補 宗教者ウィトゲンシュタイン』(法藏館、2020年)など。
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公開日:2022.04.30