非行につながるラベリング理論
人は誰かに対し、レッテルを貼って見てしまいがちです。そして、そのレッテルによって見られた人の内面も変わっていくのです。このような事象に関し、おもに非行少年についてベッカーが提唱したのが「ラベリング理論」です。
ある少年がたまたまある犯罪を犯したとします。それは、ただ一度きりのことであって、そのままであれば彼はまっとうな大人になったかもしれません。しかし、彼が検挙され、少年鑑別所に入ったとしましょう。それが知れわたると、彼は「鑑別所にも行った不良」というラベリングをされてしまいます。そして、まわりからそう見られ続けることになり、彼はいつまでも罪を犯し続けるようになるのです。
このラベリングは、司法機関や社会などが行うものです。犯罪を取り締まり、更生の施設に行かせるということ自体が本人にラベリングをし、非行を増長させるという矛盾をはらんでしまっているのです。この対策として、アメリカでは、犯罪化を減らす、できるだけ少年院に入れないようにするなどの対策がとられたことがあります。しかし、犯罪の減少にはあまり寄与しませんでした。結果的には、ひとつの理論だけですべての現象を見るのではなく、さまざまな事情を考慮した上で、対策することが重要となるのです。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 犯罪心理学』
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 犯罪心理学』
監修:越智啓太
監修者プロフィール
法政大学文学部心理学科教授。1965年、神奈川県横浜市生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科心理学専攻修了。警視庁科学捜査研究所研究員、東京家政大学文学部助教授、法政大学文学部准教授を経て2008年より現職。臨床心理士。専門は犯罪捜査への心理学の応用。著書に『犯罪捜査の心理学』(化学同人)、『ケースで学ぶ犯罪心理学』(北大路書房)ほか多数。
昨今、様々な事件や特殊詐欺など凶悪な犯罪が増えており、ニュースで犯罪に関する情報を聞かない日はないといえます。誰もが利用するSNSを介した犯罪も当たり前になっており、より巧妙化しながら身近に潜む問題にもなっています。こうした問題や実態について研究し、犯罪予防や再犯防止に役立てようとするのが『犯罪心理学』です。
犯罪心理学は、心理学の中でも実際の現場や実践に役立つことを目的とした“応用心理学”の1つで、特に犯罪行動・非行や犯罪者の心理・行動パターンに焦点を当てた研究分野です。専門書や教科書が多いジャンルですが、本書では図やイラストを用いて、1トピックを見開き1ページでわかりやすく解説。
“普通の人”が犯罪に手を出してしまう経緯、犯行内容から見える犯人像や周囲の環境、巧妙化する手口や防犯法など、知らなかった犯罪心理学を、楽しみながらもしっかりと学べる一冊です。
公開日:2024.07.05