第4回 特別企画・緊急帰国! AEW中澤マイケル直撃インタビュー

Text:岩下英幸

今回は特別企画として、緊急の帰国を果たしたAEW所属のプロレスラーにして、所属日本人選手の渉外担当なども兼務する中澤マイケル氏への直撃インタビューを敢行。長期欠場中のケニー・オメガ選手の現状や、現在AEWで活躍する日本人選手の動向など、ここでしか聞けない数々の裏話を含め、時にユーモアを交えつつ存分に語っていただいた。
(聞き手:岩下英幸 撮影:天野憲仁)


[中澤マイケル]プロフィール – 日本のプロレス団体DDT兼アメリカメジャー団体AEWに所属するプロレスラー。学生時代は柔道、アメリカンフットボールの選手として活躍。米大学院にてスポーツ科学修士課程を修了した後、障害者におけるスポーツ医学療法士を経てプロレスラーになるという異色の経歴を持つ。DDT時代からの盟友であるケニー・オメガの誘いを受け、2019年のAEW旗揚げに参加。レスラー兼セコンドの傍ら、ケニーのアシスタントのほか、AEW所属の日本人選手の通訳や渉外担当など、リングの内外で活躍中。1975年生まれ。神奈川県川崎市出身。1児の父。

長期欠場中のケニー・オメガの現状

聞き手:まずはAEWファンならずとも世界中の多くのファンが気にかけている、ケニー・オメガ選手の病状と経過について質問させてください。AEWのメインイベンターにして副社長でもあるケニー・オメガ選手は、昨年末2023年12月半ば頃から突然無期限の欠場を発表してファンを驚かせました。その後、「憩室炎」という深刻な疾患であることが病床にあるケニー選手自身からもSNS上で公表され、大いに心配されています。公私共にケニー選手の傍におられる盟友の中澤さんにお聞きするのが、おそらくは世界で一番真実に近いお話ではないかと思いますが、ケニー選手の病状や最近の様子などお伺いできるでしょうか?

中澤マイケル(以下、中澤):正確には「大腸憩室炎」と呼ばれる疾患で、下手をすれば命にも関わる厄介な病気なんです。ケニーが症状を自覚したのは、ちょうど彼の実家のあるカナダでの試合の後だったようですが、酷い腹痛に悩まされてまったく帰省を楽しめず、フロリダ州オーランドの自宅に帰った後も痛みが引かずにいました。その時は僕も付き添って病院に行ったのですが、医師からは「あと数日来るのが遅かったら危なかった」と告げられるほどの重病であることが判明しました。

幸いにも開腹を伴わないで治療できる名医を見つけることができ、つい最近手術を受けて現在は無事に回復中です。とはいえ、約25cmにもおよぶ患部の大腸を切除する手術だった模様で、今はお腹に力を入れることができないでいます。ただ、普通なら歩行もおぼつかないような大手術だったのにも関わらず、自力で歩いているのを見た時にはさすがだと思いました。ちなみに、ケニーはドビーという猫を飼っているのですが、そのトイレを屈んで掃除してやることができないため、そこは僕が通って手伝いました(笑)。

その後、少しずつではあるものの、身体を動かしてのトレーニングができるようになってきています。ただウェイトトレーニングに例えると分かりやすいですが、以前と同じ重量を挙げることなどはまだまだできませんから、プールの中での運動やウォーキングなどリハビリ的な要素を取り入れつつ、今自分にできる最大限のトレーニングは何かを試行錯誤しながら、快復に向けて頑張っています。

聞き手:ありがとうございます。ケニー選手の現状について、これだけ詳しい情報はおそらくどこを見渡しても得られないことと思います。ファンとしてはそうした情報を知らず、無責任に「ケニーのリング復帰はいつだ?」のような議論がありますが、そもそもそういったレベルの話ではないことをここでお伝えできるのは、大変貴重なことだと思います。

中澤:そうですね。そもそもお腹に力が入らない訳ですから、果たしてそんな状態で、例えば受け身が取れるのかといった心配がありますね。受け身の衝撃というのは身体的にはかなり凄いので、それが内臓にどんな影響を及ぼすかなど、全く分からないですよね。なので迂闊に「いつ復帰を目指します」といったことは言えない状況ですね。

日本人選手はAEWにとって欠かすことのできない存在

聞き手:本コラムではAEWで活躍する日本人選手を取り上げてご紹介させていただいていますが、エポックなことで言えば今年、新日本プロレスからオカダ・カズチカ選手というビッグネームが、電撃的にAEWに移籍を果たして話題になっています。AEWとして日本人選手のこうした獲得について、団体としてどういう方針を掲げているのでしょうか?

中澤:そもそもAEWを設立するにあたって、社長であるトニー・カーンだけでなく、ケニーやヤング・バックスの二人、さらにコーディ・ローデス(現WWE所属)という副社長の面々の中で話し合われていた意見として、AEWは「バッフェを目指す」ということが挙げられます。日本語で言うところの”ビュッフェ=食べ放題”という意味ですね。要は専門レストランのような何か一つの種類のものがあるのではなく、いろんなものがあってお腹いっぱいになれるという意味合いで、その中の一つとして日本人レスラーの存在は欠かせなかったのかなと思います。特に副社長の4人はいずれも日本のマットでプロレスを経験していましたから、トニー・カーンを含め日本人レスラーに対するリスペクトと憧憬の念はとても深いです。さらに言えるのは、日本人レスラーのプロレスはアメリカと比べて、少しスタイルが違う点もある点も魅力なんだと思います。

聞き手:それはどういった違いなのでしょうか?またその点はアメリカの観客にも理解され、受け入れられているものなのでしょうか?

中澤:無論日本人レスラーのスタイルにも様々なバリエーションがあると思うので、一概には言えませんが、特に「キング・オブ・スポーツ」を標榜している新日本プロレスに参戦したことのある選手などは、AEWが当初に目指していた競技的でアスリートが行うプロレスという理念に近いですね。言ってしまえば、なんとなくアメリカンプロレスといえば、演出が派手でいきなり女性の奪い合いをレスラーがしてみたりといったイメージがあると思います(笑)。そうではなく試合の内容であったり、技であったり、リングの中での立ち振る舞いといった点で観客を魅了できるのが、日本人レスラーであるという認識があると思います。まさにリング上での「勝負」を見たいファンにとっては、たまらない魅力があるのではないでしょうか。

聞き手:なるほど。お話にあった「ビュッフェ」というキーワードは、AEWを表現するに際してとても分かりやすい例えですね。

中澤:とはいえAEWも今はいろいろと方向転換をしていて、マイクパフォーマンスであったり、 ストーリー的なものも入ってきていて、“魅せる“という要素として大事なものは取り入れ、うまくミックスしながらどれぐらいの比率がいいのか試行錯誤しているのではないかと思っています。

女子レスラーが牽引する日本人レスラーの重要性

中澤:ちなみにAEWの旗揚げ当初は、男子の日本人レスラーって僕だけだったんですよ。

聞き手:そうなんですね!!

中澤:さくらえみ選手、里歩選手、志田光選手、そして坂崎ユカ選手といった女子レスラーの方々の所属の方が先で日本人レスラーの重要性は、むしろ”女子レスラーの中で日本人がどう重要か”という点に繋がっていくのかなと思っています。

聞き手:AEWが初期の時点において、日本人女子レスラーを多く抜擢したことは、かつてDDT所属であったケニー・オメガ選手の手腕という面があるのでしょうか?

中澤:それはありますね。彼女達を所属選手と選んだのはケニー自身です。インディーなどの団体は別として、それまでテレビで見られる大きなアメプロ団体での女子に対しての扱いは、試合をするレスラーというよりむしろ、大体が「お色気担当」の立ち位置がメインでした。ちょっと際どいコスチュームなどを着て、それをお客さんが喜ぶ形ですね。その状況を変え、「女子プロレスの凄さを見せたい」という意図がケニーの中にあったんだと思います。おかげで「女子=ジョシ」という言葉は、AEWのレスラーの間では女子プロレスラーのことを指す言葉としてそのまま使われています。

聞き手:世間一般の女性を指すのではなく、日本人女子プロレスラーだけを指して「女子=ジョシ」と呼ばれているのですか?

中澤:そうです。なので、例えばアメリカ人同士の試合は「女子の試合」とは呼ばないんです。あくまで日本女子レスラーが絡むことで、「これは女子の試合」として、リスペクトと共にしっかりとジャンル分けがされていますね。ただ、これがファンにまで浸透しているかどうかというのは、僕では分からないのですが(笑)。

聞き手:面白いですね。これは女子レスラーに限らないですが、日本人レスラーには柔道を筆頭に体術などの、およそレスリングに繋がる素養のバックボーンがあった上でプロレスラーになっている選手が多いですよね。そうした事情からリング上での闘いぶりも、一歩も二歩も日本以外の出身のレスラーをリードしているような気がします。

中澤:これはどちらがいい悪いの話ではないのですが、特にアメリカ人の女子レスラーはセルフプロデュースに長けていて自分を魅せるのがうまいんですね。カメラの映り方やポーズの取り方など、そうした面は一日の長があるなと感じます。もちろんそういう点は大事だと思うんですが、むしろ試合をよくすること、自分だけではなく相手のことも考えて、試合全体がベストなものになるように全力を尽くすというイメージが日本人レスラーにはあります。特に私が女子レスラーが素晴らしいと思うのは、リング上における所作振る舞いなんですよね。

例えば受け身一つとっても、本来は自分の身を守るための動作ですが、どうやったら受け身が綺麗に見えるか、もしくは受け身の後にどう立ち上がったら綺麗に見えるか、といった反復練習を日本人レスラーは怠りません。試合を一つの作品と見立てた場合に所作振る舞いが素晴らしいことで、見ていてまとまりがあり、バタバタとしていないんです。

起き上がり方ひとつでもスムーズだし、受け身を取った場所で自分勝手に起き上がるのではなく、リングを広く大きく使うことを意識して、お互いが遠ざかるように起き上がる位置を変化させるなどの工夫をしています。これにより見ている観客にとっても、本人達の体は小さいですけれど、プロレスがよりダイナミックなものに感じられる効果を与えたりしているんです。

そういったお互いが足りない部分を補い合う機会という点から見ても、AEWにおける日本人女子レスラーの存在が欠かせないものと言えるのではないでしょうか。

竹下幸之助選手の知られざるエピソード

聞き手:そうした中、今旬といえば竹下幸之助選手を挙げないわけにはいかないと思います。今年新日本プロレスの”夏の風物詩”であるG1クライマックスに、AEW所属選手としてまさに外敵として参戦し、現在も破竹の勢いの活躍ぶりを見せています。古巣DDTで共に過ごした中澤さんから見て、竹下選手のこれだけの活躍ぶりは、その当時から予想できていましたか?

中澤:うーん、難しい質問ですね。竹下選手はDDTでは高校生でデビューしているんですが、その時から動きは凄かったし、いろいろなことを普通にできてしまっている選手でしたね。当時は身体の線こそ細く、技術的な面も未熟でしたが、肉体的な能力やポテンシャルといった点については群を抜いていました。なので、たちまち”FUTURE=DDTの未来”という異名をつけられたほど、将来性については申し分ない存在でした。ただ、最年少で団体王座を戴冠するといった順調なキャリアを積んでいく中で、色々と進歩はしていたものの、何か行き詰っているようにも見えたんですね。

聞き手:それはAEW移籍前の話ですよね?となると、そこは中澤さんが影のフィクサー的に、AEWへの扉を後押ししたということなんでしょうか?

中澤:(笑)。まぁ、僕の後ろにケニーがいるという前提だとは思うんですが、最初に竹下選手から僕に「AEWのリングに上がりたいんです」と直々に相談してくれました。もちろんケニーも竹下選手のポテンシャルは認めていましたので、ダークマッチとハウスショーというテレビでは放送されない形で3試合限定の参戦が実現したんです。彼としては行き詰まりを感じていたのと同時に、今考えればですが、広い世界を見てみたいという思いもあったんだと思います。

そして、そのダークマッチをバックステージから観ていたのがクリス・ジェリコで、「コイツは誰だ!?コイツは何年やってるんだ!?」と竹下選手のことを僕に聞いてきたんですね。10年弱のキャリアがあるけど、高校生デビューであることを伝えると「そんなに若いのか!?」とさらに驚かれました(笑)。その後、ジェリコ自ら竹下選手に声をかけて、最大限の賛辞を贈ったんです。そのことで竹下選手はかなりモチベーションを掻き立てられたようですね。ジェリコのようなスーパースターともなれば、1日何十試合もあるダークマッチで、気にならない試合なんてそもそも観ないですから。

聞き手:なるほど!それで繋がりました。かつてのDDTの興行「WRESTLE DREAM」で、いきなりジェリコと竹下選手のスペシャルマッチが組まれたことがありましたよね!

中澤:まぁ、そうですね。もちろん、その道を最初にお膳立てしたのはケニーですが、竹下選手がAEWに入りたいというモチベーションをもらった、アメリカでの最初の人間がひょっとしたらクリス・ジェリコだったかもしれませんね。無論、ジェリコ以外のバックステージの面々の間でも、竹下選手の凄さは評判になっていましたよ。ただ、彼の渡航は武者修行的な意味合いが強かったので、本来招待選手であればAEWからの金銭的援助があるのですが、この時は移動や宿泊もすべて自費で行っていました。なので、彼はホテル代の節約と称して僕の家に転がり込んでましたね。その後、再度の渡米の機会があった時も2~3ヵ月ほど同じように居候してたんで、さすがに「長ぇ!」って思いましたけど(笑)。ただ、もうその頃は評判を聞きつけた全米中のインディー団体から、試合参加へのオファーで引っ張りだこの状態でした。「お前、一週間に何試合するんだ!?」って僕が心配してしまうほど、いろんな場所のいろんな団体に出てましたね。

聞き手:え?それはAEWでの毎週の試合をこなしつつ、ですか?

中澤:はい。当然出場した試合のすべてで評価も高かったです。まぁ、どんだけ稼ぐんだって感じでしたけど(笑)。

聞き手:それはタフ以外のなにものでもないですね。そして今や竹下選手は、悪徳マネージャーのドン・キャラス・ファミリーの一員として、トップスターの仲間入りを果たしていますね。現地の観客の反応を見ても、素晴らしい試合を見せる逸材だとの評価も定着しているように思えます。さらに竹下選手はプロモと呼ばれる短めのストーリーシチュエーションをこなす際には、英語を一切使わずにベタベタの関西弁でまくしたてたりしているのも魅力です。

中澤:そういった点も、竹下選手がファンに受け入れられた一つの要因かもしれませんね。

本格的な日本進出が期待される「レッスル・ダイナスティ」

聞き手:このほど新日本プロレスをはじめ複数団体との合同開催の形ではありますが、AEWとして本格的な日本初上陸となる大会「レッスル・ダイナスティ」の、来年2025年1月5日東京ドームでの開催が電撃的に発表されました。AEWの日本進出に賭ける意気込みや狙いのようなものがあれば、最後にぜひお聞かせください。

中澤:まずは現地アメリカで新日本プロレスと合同で開催している「禁断の扉 ~Forbidden Door~」というPPV大会があるのですが、その日本版を日本の地で開催してみようというのが根本的な主旨だと思います。日本はマーケットとしてのポテンシャルが高いこともありますし、AEWの認知度を高めたいというのは当然として、同時にこれまで日本のリングには上がったことのないレスラーによる、普段では観ることのできないカードを提供する意味合いも強くあります。特にAEWが主催する「禁断の扉」とは違って、今回は新日本プロレスが主催となって行われる大会になるので、意外な対戦カードといった点にもぜひご期待ください。ちなみに、日本のファンの皆さんを多く会場に呼ぶとなると、「あの選手」の出場は欠かせないかな、と個人的には思っています。

聞き手:中澤マイケルですね?

中澤:いやいやいや、ケニー・オメガです(笑)。加えて、今AEWで活躍する日本人選手の柴田選手やウィル・オスプレイ、ヤング・バックスといった面々も含めて、しばらく日本を離れている選手達の今現在のAEWでの活躍ぶりをそのまま見せることができるというのも、ひじょうに大きいかなと思っています。願わくばそれまでにケニーの復活、さらには同じく欠場中の飯伏幸太という「ゴールデン・ラヴァーズ」の二人が東京ドームに凱旋してくれればいいかな、とこれは僕個人の希望的観測も含めて思っています。そしてそのセコンドに僕がつきたいな、と(笑)。

聞き手:今後もAEWの熱狂ぶりを、当コラムでもどんどん盛り上げていきたいと思っております。本日はありがとうございました。

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