SPORTS COLUMN
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一面の赤、居並ぶ6,6,6・・・

Text:遠藤玲奈

元広島カープ 現エイジェック硬式野球部コーチ兼内野手 梵英心さんトークショー

キャンプイン前夜、
雨にも負けない、むしろ水を得た鯉のようなカープファンの方々が開場前から列を作っていました。

入場してユニフォーム姿になると、会場内は一面の赤。そして背中に並ぶ6、6、6。頼りがいのあるカリスマ選手のみに許される番号を背負った熱いファンが待ち受けるのは、2017年まで広島カープで活躍、2018年6月に社会人野球チームのエイジェックにコーチ兼任で現役復帰された梵英心選手です。

DJケチャップさんの呼び込みで梵選手が登場すると、満員の場内に大きな拍手と歓声がわき起こります。“初梵”の人も数名、“引退後初梵”の人、と呼びかけるとかなりの手が挙がりました。会えることを心待ちにしていたファンの方々のために梵選手が会場を一周すると、熱気がさらに高まります。

ファンになったきっかけをケチャップさんが尋ねると、「ホームランを打ってヒーローインタビューを受けていたのがかっこよかった」と女性ファンが答え、その時のことを覚えているという声が口々に上がりました。ところが、当の梵選手は、なんとなくしか覚えていないと言います。
鮮明に覚えているのは、いいことよりも悔しかった思い出なのだそうです。

優勝、複雑な思い

その流れで、近年のカープについても語ってくださいました。三連覇初年の2016年、優勝の歓喜の輪の中に梵選手もいました。その時の思いは複雑だったそうです。広島で生まれ育ち、カープをずっと見てきた立場としては、この瞬間にユニフォームを着てグラウンドにいられるのは最高に素晴らしいこと。でも、この優勝に貢献する活躍を、自分自身はしていない。
翌日のデーゲームに備えて寝ようとしたものの、結局朝まで寝られなかったそうです。悔しかったんだと思う、と当時のことを振り返っていました。我が世の春としかいいようのない昨今のカープですが、ライバル球団やそのファンだけでなく、内部にもそのような思いをしている人もいるのだという、考えてみればもっともなことに気づかされました。

突き進む己の野球道

悔しかった話から始めてしまいましたが、梵選手は基本的にさっぱりとした人柄であることが伝わりました。
「一生懸命な人」には好感をもてるが、「がつがつしている人」はちょっと…という人が多いと思います。その線引きは難しいものですが、自分の実力や努力以上のものを手段を選ばずに手に入れようとする人が後者とみなされるのではないかと、私は考えます。
梵選手には、がつがつしたところが全く見られませんでした。駒澤大学時代の練習は厳しかったとお話されていましたが、自分はあんなに頑張った、と苦労を力説することはありません。それが自然体で爽やかでした。そういうことをアピールしたくないということもあるでしょうし、その時々の自分にできること、やるべきことがわかっていたのだろうと思われました。確固たる目標はある、それは具体的で実現可能なもの。それに向かってトレーニングに励み、つかみとる。スタープレイヤーでありながら地に足の着いた落ち着きを備えているのは、ご実家がお寺であることと少し関係するのかもしれません。

お客さんの数は過去最高、目線の厳しさも、と冒頭に苦笑いしたケチャップさんでしたが、己の野球道を颯爽と歩む梵選手の哲学、そして心温まるふれあいを堪能し、会場を出るファンの皆様は大満足の表情でした。

生涯現役、またトークショーを!

次は梵選手の実家で、という仰天プランもケチャップさんの口から飛び出しました。鍋パーティーか、写経会か…想像はさまざまに膨らみますが、トークショーは必ず再び実現してほしいです。たくさんのエピソードを新たにお話いただけるよう、「生涯現役」梵選手のますますのご活躍をお祈りします。

『ラブすぽ』ライター:遠藤玲奈
池田高校のやまびこ打線全盛期に徳島に生まれる。慶應義塾大学法学部卒業、東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。選手としての経験はないが、独自の方法で野球の奥深さを追究する。特に気になるポジションは捕手。フルマラソンの自己ベストは3時間31分。