SPORTS COLUMN
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大局を見続けたスーパーサブ

Text:遠藤玲奈

【元読売ジャイアンツ 現栃木ゴールデンブレーブス監督 寺内崇幸さんトークショー】

会場に入った観客の皆様がユニフォームに着替えるのはもはや見慣れた光景ですが、今回その背中に並んでいる番号は「00」。登録できることはわかっていても、やはり何か特別な雰囲気の番号です。いかにも花形選手というのとはひと味違った、なにか得体の知れないような…

まさかの駅でのアナウンス

スーパーサブと呼ばれた寺内さんは、選手としては確かにそのような印象でしたが、人柄はとても気さくで、DJケチャップさんの質問に次々と答えてくださいました。栃木工業高校の時は溶接を、社会人野球のJR東日本時代は駅員の仕事をしていたという事実に、客席からも驚きの声が上がります。駅でのアナウンスもご披露いただきました。てきぱきと働く優秀な駅員さんだったのだろうと思われますが、職員として勤務しながら野球をする生活には5年間で終止符が打たれます。2006年のドラフトで読売ジャイアンツから指名され、念願のプロ入りが叶ったためです。


プロの守備は「かっこいい」

プロの世界で、それまで身につけていた技術は通用したのでしょうか。

守備に関して「捕ることはできた」のだそうです。ところが、捕る、投げるといった動作が、他の選手のようにかっこよくできず、取り残されているような気分になったと寺内さんはおっしゃいました。

格好がどうでも捕って投げられればよいのでは、というのは素人考えのようです。寺内さんは実演を交えて、プロ入り前後の守備の違いを示してくださいました。野球経験のない私には難解でしたが、メモだけは必死で取ったので、どうにか言葉で再現してみます。

プロ入り間もない頃までは、向かってきた球を、右膝を内向きに曲げた状態で、体の正面より左側で捕っていたのだそうです。右膝を内向きに曲げると上体は自然と左に行くでしょう。そのままグラブを出せば、確かに捕球できそうです。

ですが、股割りの状態のように右膝を外側に曲げたまま、正面より右側で捕球するように変わっていったそうです。それだと右膝が曲がった状態から伸ばすタイミングで投げられるため、強いステップで速く正確な送球ができる…

そんな気もする、という感じで私自身書いているのですが、詳しい方にはご理解いただけますでしょうか。私のように理解が難しい方は、身近な野球経験者に尋ねてみてください。なるほど、すごい、とご納得いただければ幸いです。


プロで生き抜いた心がけ

ここからさらに上級の話になりますが、かっこいいプレーと、息を飲むようなスーパープレーとは、また違うようです。寺内さんは、派手に見えるよりも堅実な守備を心がけていたそうです。

守備固めでの出場も多かった寺内さんは、投手からの信頼を非常に重視していました。ダイナミックなプレーは観客には喜ばれますが、それでミスをしてしまうと、投手に与えるダメージが大きくなります。ダメージとはつまり、あんなことをしていて捕ってくれないのか、という不信感です。大事な局面でチームメイト同士の信頼が揺らいでしまっては、勝てるはずの試合も落としてしまいます。投手に安心して投げてもらうためにできるだけさりげなく見えるプレーを、と寺内さんは常に考えていたそうです。

そこまでのことをわかっていた寺内ファンも、そうではない寺内ファンもいると思います。後者の方々にも、それだけ気配りの人だということは伝わっていたのでしょう。だから、声援を送らずにいられなかったのでしょう。

ベンチで待機している間もグラウンドでも、常に冷静に大局を見続けた寺内さんが、ついに監督に。その采配に注目せずにはいられません。寺内ファン、栃木ゴールデンブレーブスファンのみならず、野球についてより深く学びたいと考えている人は、必見です。


『ラブすぽ』ライター:遠藤玲奈
池田高校のやまびこ打線全盛期に徳島に生まれる。慶應義塾大学法学部卒業、東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。選手としての経験はないが、独自の方法で野球の奥深さを追究する。特に気になるポジションは捕手。フルマラソンの自己ベストは3時間31分。

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