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五輪メダリストから元Jリーガー、現役代表選手まで。アスリート自らが考える「アスリートキャリア」のあり方とは?

スポーツ界への新型コロナの影響は、アスリート抜きでは語れない。試合や大会が中止になり、進路やキャリアについて考え直すこととなったアスリートも少なくない。スポーツのあり方が変わる中、アスリートとしてのキャリアは今後どうなるのか?五輪メダリストから元Jリーガー、現役の代表選手まで、トップアスリートが『HALF TIMEカンファレンス2021』で議論した。

メダリストや東京五輪代表候補が登壇

スポーツ業界最高峰のカンファレンスイベント『HALF TIMEカンファレンス2021』が5月12日と13日の2日にわたりオンラインで開催。2日間の最後は、五輪メダリストら元トッププレーヤーと現役選手が参加した「アスリートのキャリアを考える」セッションで締めくくられた。

登壇者は、ロンドン五輪女子バドミントンダブルス銀メダリストの藤井瑞希氏、元プロサッカー選手の播戸竜二氏、ロンドン五輪柔道銀メダリストの平岡拓晃氏、そして先日空手の世界選手権で優勝を飾った月井隼南氏。

パーソルキャリア執行役員の大浦征也氏をモデレーターに、アスリート自身が考える、アスリートならではのキャリア構築を再考した。

現役時代からの「準備」が必要

元プロサッカー選手/株式会社MR12 代表取締役 播戸竜二氏

「現役中にどの程度キャリアについて考えたか?」「どのようなきっかけでキャリアを考え始めたか?」 大浦氏がアスリートたちに自身の過去を振り返ってもらう質問を投げかけ、セッションがスタート。

口火を切ったのは、現役時代から自身のマネジメント会社を立ち上げ、引退後はJリーグ特任理事やWEリーグ理事として精力的に活動する播戸氏だ。

「元々選手になった時からキャリアについて考えていた。早めに勉強しようと思って約10年前に会社を立ち上げました。選手生命が終盤に向かいつつあるのを肌で感じていたので、準備しようと。引退後の新たなポジションを作っていかないと、次に引退する選手も困るし大変になる」

藤井氏も自身のデュアルキャリア(複数の仕事に同時に就くこと)に言及。現役時代から準備をしていたのは播戸氏と同様だ。

「18歳の頃、『バドミントンを取り除いたら自分には何の価値もない』と感じて、選手のときから先を考えていました。引退後に講演会で話す機会が増えるかなと思い、話すための勉強をしたり、競技の間にイベントに参加したりしました」

柔道家/ロンドン五輪 柔道60kg級 銀メダリスト/筑波大学体育専門学群 助教 平岡拓晃氏

平岡氏は、現役時代のあることがきっかけで心持ちが変わるようになったという。

「柔道界では引退後は警察や教員といった道があったので、現役中は『なんとなく教員になるんだろうな』くらいしか考えていませんでした。しかし講演で競技について話す中で、もっと教えたいと思う反面、話すスキルや自分の知識がないことに気づいて。

それで、修士に進んだ先輩のアドバイスもあり、現役をしている中で空いた時間を勉強に費やして修士を取りました。メダルを取った後にもっと研究に自分のオリジナリティを出したいと思い、博士まで取って今に至ります」

月井氏は登壇者の中で唯一の現役選手だが、深く頷いて自身のエピソードを紹介した。

「私は大会で何度も優勝して、高校・大学も推薦で行かせて頂きましたが、高校3年生のとき両ひざの前十字靭帯を損傷してから試合に勝てなくなった時期がありました。そうすると周りの人たちの反応も変わる。メダルを取れない自分には何の価値もないんだと、自己嫌悪に陥ってしまいました。

空手も大学も辞めたかったんですけど、辞めた先の道の歩き方を知らないので辞められなかった(苦笑)。結局、空手は勝つまで続けることにしましたが、自分に自信をつけるために教員免許をとったり、就活をして実際に内定を頂いたりもしました」

粘り強さだけではない、アスリートの強み

ロンドン五輪 バドミントン女子ダブルス 銀メダリスト 藤井瑞希氏

大浦氏は次に、「現役時代に身についた力は引退後に活きるのか?」というトピックを提示。アスリートが引退後に一から学び直すのではなく、今までの学びがどのように今後に活きるかを自覚できていれば、セカンドキャリアへの恐怖心も軽減されるかもしれない。

この質問に対し、最初にコメントしたのは藤井氏。バドミントンの競技特性から身についた能力について言及した。

「バドミントンは相手を見て、相手の状態を察知してプレーするので、対人コミュニケーションを築く際に『相手がどんな人かを分析する力』が養えると思います。加えて、計画を考えて逆算して動く『準備力』。私は一つひとつどう動くのかという『問い』に対して、それぞれ答えをもってプレーする選手だったので、言語化力も身についたと思います」

言語化力については月井氏も、「武道は寡黙でいることが美徳。言語化の重要性をもっと伝えるべきだと思います」と同調する。

播戸氏も現在のビジネス経験から、「自分は(現役時代)あまり言語化をしてこなかった(苦笑)。けれど、ビジネスでは『対話』によってぐっと内容が良くなることがある」と話した。

現役時代に身につけた能力を、他人に分かりやすく説明する。これが新しい場所で価値を示し、活躍してく第一歩になることは間違いない。

キーワードは「学びの実践」

空手選手/フィリピン代表東京五輪候補 月井隼南氏

最後のトピックは、「今後のアスリート支援」。アスリートが現役後も様々なフィールドで活躍し続けるためには、選手自身の意識の変化と周囲のサポートが欠かせない。

藤井氏は、企業スポーツという形態が多いバドミントンを例に挙げつつ、研修の有用性を指摘した。

「(企業に所属していると)週1日だけ出社という環境も結構あるのですが、そうすると任せられる仕事も少なくなります。研修でやったことが身につかず、基礎知識も得られない。選手には短期間でもいいので、社会人としての最低限のスキルを身に付けられる機会があってもいいのかなと思います」

選手が企業に所属することが多いのは柔道も同様だ。平岡氏も、セカンドキャリアを考えれば、現役中からのビジネス研修があってもいいと同意する。

「柔道界も基本的には企業とは1年契約で、(競技で)結果を出し続けることが前提。なので自分もメールの書き方や電話の取り方が分からなかった」

月井氏は、「大人になってから聞きづらくなることが多かった。学生のうちから競技だけではなく社会について学んで、実践経験を積んでおきたかった」と証言。学生のうちから競技外の世界に触れることは、社会人になってから学び直すよりも効率が良いとの見方を示した。

これらを踏まえて、播戸氏が一つの解決策を提示してセッションは締めくくられた。

「アスリートとして競技レベルを高めることと同時に、視野を広げることも必要。企業や大学などの活用や、現場でインターンをするのもいい。アスリートとしての自信にもなるし、今後のキャリアにも活きるのでは」

社会には、アスリートの力を借りたい、活かしたいと考える企業、団体は少なくない。アスリート自身とこれらの組織がそれぞれ歩み寄って、新しいアスリートのあり方、価値を共に創り出す時代がきている。

初出=「HALF TIMEマガジン」
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