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球団が持つコンテンツを街に、行政に、市民に:横浜DeNAベイスターズ 広報・コミュニケーション部 河村康博氏【30代キャリア】

スポーツビジネスの現場で核となり、さらに将来のキーパーソンともなる30代の方々に、これまでのキャリアと現職について伺う連載企画。第5回は株式会社横浜DeNAベイスターズ 広報・コミュニケーション部 部長の河村康博(かわむら・やすひろ)さんに、多くの企業をクライアントに抱える大手総合PR会社から、スポーツ・コンテンツホルダーであるプロ野球球団へと転身した広報・PRキャリアを伺います。(聞き手は新川諒)

――横浜DeNAベイスターズは、2011年12月にディー・エヌ・エー(DeNA)が経営権を取得し、その後大きく変化してきた球団です。同社の参画から今年で10周年。注目球団での河村さんの役割について教えてください。

広報・コミュニケーション部の中には広報、広告、ウェブの3グループがあり、私はそれらを統括する立場にいます。これまではそれぞれが個別に動いてきましたが、社外へコミュニケーションするにあたってうまく連携を取りながら、統一感を持って情報を伝えるためにまとめることになりました。広報グループは大きく事業とチームに分かれます。ウェブは球団公式HPや有料モバイルサイトなどを運営し、広告は球場や横浜の街での装飾、広告展開を担っています。22名のメンバーに加えて、外部のクリエイターさんやデザイナーさんとも連携を取り、ベイスターズの情報を伝えています。

球団事務所で勤務を行い、試合が行われる日は横浜スタジアムに足を運び、チーム付広報や担当記者の皆さんとコミュニケーションを取ることを心がけています。もちろん、日々チームを取材してくださる担当記者の方だけでなく、普段接点のない方々とのつながりを作ることも意識しています。スポーツビジネスという文脈でもベイスターズの存在感を出していきましょうと、事業広報を担当しているメンバーとは話していますね。

また、これまでは外に向けて行ってきたコミュニケーションですが、現在は在宅で勤務する職員も多く、もう少し「中」にも目を向けないといけないと考えています。同じ部署、会社、グループ企業との連携をより一層図り、もう一段成長していければと思っています。

――スポーツチームの広報職は、まだまだ珍しく映るかもしれません。今に至るまでのキャリアを教えていただけますか。

新卒では、総合PR会社の株式会社プラップジャパンに入社しました。情報を伝えることに興味があり、大学時代からマスコミ業界を意識してメディア社会学を学んでいたんです。当時は広告と広報の違いも知りませんでしたが、プラップジャパンの新卒説明会に行ったときに、『記憶に残っている新聞記事と広告を思い出してください』と問われる場面がありました。そうすると、記事は思い付くけど、広告はなかなか思い出せない。なるほどこれが広報と広告の違いなのかと感じ、広報の道を目指すようになりました。同社ではBtoC企業や製薬会社の広報支援を行うなど、5年間在籍しました。

「横浜に縁もゆかりもない、野球初心者」

――転職のきっかけは何でしたか。スポーツ業界に辿り着くまでの経緯もあわせて教えてください。

前職で複合施設を運営する企業に出向して、広報部員の一人として仕事をしたことがあるんです。そこでの経験を積んでいるうちに、いろんな企業の広報を支援する立場より、一つの企業で事業・サービスの広報に集中する方が、自分としてはやりがいをより得られるのではと感じました。ゆくゆくはそういったキャリアを積んでいきたいと思い、それが転職活動につながります。

正直、スポーツ業界を意識したことは全くありませんでした。スポーツを見るのは好きで、学生時代もサッカーやテニスをやっていましたが、ビジネスとして捉えたことはありませんでした。でも、広報の職種で転職活動を続ける中、偶然ベイスターズの採用を知り、選択肢として挙がったんです。

採用面接の際にも、私は千葉出身で横浜に縁もゆかりもないこと、野球よりはサッカー派だということを正直に話しました。それでも受け入れてもらえて、実際に入ってみるとそれが良かったかなという点が結構あります。広報は企業が伝えたいことと、世の中が知りたいことの「間」を作って行く仕事ですので、外の視点を持つことで役立つことが多いんです。

ベイスターズは「ベンチャー企業」

――縁もゆかりもない球団、特別意識していなかったスポーツ業界。それでも転職しようと決めた理由は何でしょうか。

私が横浜DeNAベイスターズに入社したのが2014年3月。2011年末にDeNAが参入し、2012年、2013年シーズンと最初の2年間が過ぎた頃でした。企業としても様々なチャレンジをしていて、社員にもその姿勢を求めていました。環境として非常に面白く、大きな可能性がある。個人的にもこれまでの経験を生かし、さらに成長できると感じたことがきっかけです。

今でこそ他チームも増えてきましたが、当時としては珍しかった「野球以外」のコミュニケーションを積極的に行っていたのがベイスターズでした。野球一本で、勝ち負けのみを伝えるという球団であれば私でなくても良い。むしろ、私がいても何もできない(苦笑)。

でもベイスターズは、行政や街と関わり、様々なイベントやエンターテインメントを通して野球ファンだけでなく地域の人々にも楽しんでもらいたいというコミュニケーションをしていました。複合施設のPRなどこれまでの広報経験を活かしながら、自分が働くことがイメージできたんです。

――そして転職となりますね。2社目でプロ野球球団で働くという経験は、実際いかがですか。

DeNAは「永久ベンチャー」を掲げ、失敗を恐れずチャレンジするというカルチャーがあります。ベイスターズも同じです。新たなチャレンジを推進し、うまくいかなかったことを分析して、活かせるものは次に活かして、活かしようのないものは止める。この繰り返しです。

近年、観客動員数がこのスピード感で向上したのは、この方法を短期スパンで回してきたからです。その後も、試合興行ビジネスの枠から出て飲食店舗を横浜の街に出店したり、アパレルブランドを立ち上げ展開したり、コワーキングスペースを運営したりと多角化しています。
(※ ベイスターズの年間観客動員数は、2011年の約110万人から、コロナ禍直前の2019年時点で228万人へ伸長。10年に満たない期間で2倍以上に拡大した)

球団のリソースとコンテンツを、地域に展開

――ベイスターズは、新しいスポーツビジネスを創造しているようにも見受けます。

私自身、あまり「スポーツ業界」で働いているという特別な感覚はないんですよね。周りに自分の仕事を説明する時も、行政と連携して子供たちに選手が食べているカレーを給食として提供したり、絵本を作って赤ちゃんにプレゼントするなど、『スポーツを軸に色々なコミュニケーションをしている』という言い方をします。
(※ ベイスターズの選手寮で提供される「青星寮カレー」は2017年から横浜市内、2019年から横須賀市内の小学校で給食として提供されている。また、絵本『スターマン!おきてくださーい』は2019年から約3万人の横浜市の乳児にプレゼントされているほか、全国の書店でも販売中)

選手の近くにいるような業務ではありませんが、企業やチームが持つリソースやコンテンツを、よりファンに、行政に、街に、市民に届けること、そして地域の社会課題を解決する力になり、横浜にとってベイスターズを誇りに感じてもらうことを目指しています。これまでの仕事を思い返しても、そういった社会性のある企画が一番印象に残っていますね。

――キャリア2社目がプロ野球球団。ベンチャー企業カルチャーというお話も出ました。河村さんが自分自身の課題だと思うことはありますか?

事業会社に入ると売上など様々な数字を常に考えないといけません。どう分析し、戦略を作り、数字にコミットするのか。部長になって約2年ですが、組織をマネジメントする立場になると、広報として情報を外に伝えるだけでなく、売上などの数字に対して何ができるのかを考え、社内の事業部が何を求めているのか理解することがより必要になります。

広報の観点からすると、売上を立てる、儲けるというのが透けて見えるコミュニケーション施策は、誤解を招いてしまう可能性があります。難しいですが、それでも内側では経営視点を持たないと、チームにも施設にも投資ができなくなってしまいます。そういった点をしっかり考えていかなければと思いますね。

横浜の地に真に根付き、海外も視野に

――改めて、スポーツの魅力や価値についてどうお考えですか。

スポーツチームは知名度も大きいですが、「何でもできる」、「何にでもなれる」環境にいると思います。その可能性は非常に大きい。民間企業なのですが公共的な側面も大きく、普通の企業では到達できないところまで、飛び越えていくことも可能だったりします。

大学では社会学を学んでいましたが、色々な分野と掛け合わせができる点でスポーツは似ていると思いますね。スポーツは教育、食、観光など何とでも結合させることができますし、まだ気づいていない領域も多くあると思います。

選手やチームを意識し過ぎてしまうこともありますが、「外」の目線を忘れずにいないと勿体ない。その可能性をいかに見つけられるかという役割を担わないといけないと感じています。

――最後の質問です。河村さんが入社してからもうすぐ8年目を迎えます。このベイスターズというチーム、企業で成し遂げたいことは何ですか。

一つは、ベイスターズは近年盛り上がってきたとはいえ、「真の盛り上がり」にはまだ達していないと思います。チームが優勝するタイミングに、事業の力でその盛り上がりを最大限まで引き上げたい。実は、いまだによく言われるのが「1998年凄かったよね、横浜」という言葉です。この体験をしていない方が増えてきているので、私たちの手でしっかり届けたいですね。

もう一つ。2021年は横浜DeNAベイスターズにとって10周年の節目となります。これに合わせて、企業としてのコーポレートアイデンティティを刷新し、ミッション、ビジョン、行動規範を制定しました。5つある行動規範の一つに「Local but Global」を定めています。横浜という地に徹底しながら、世界に目を向けよう、横浜発の世界初をつくっていこう、というものです。

例えば、昨年、無観客や来場制限が行われ、球場でのベイスターズとの接点が少なくなってしまった中、なんとかして野球やベイスターズを楽しんでほしいと考え、ネット上に仮想空間の横浜スタジアムをつくり、自身のアバターを操作して観戦してもらう「バーチャルハマスタ」を企画しました。新たなスポーツ観戦の形として、世界的にも非常に珍しい事例になったと思います。

このような事例をたくさん作っていくことで、世界からも「日本の野球は凄いな」、「横浜にあるベイスターズは面白いな」と思ってもらえるように、取り組んでいきたいと思います。

聞き手:新川 諒
現在はNBAワシントン・ウィザーズのマーケティング部でデジタル・スペシャリスト、そしてMLBシンシナティ・レッズではコンサルタントを兼務。フリーランスとしてスポーツを中心にライター、通訳、コンサルタントとしても活動。MLB4球団で合計7年にわたり広報・通訳に従事し、2017年WBCでは侍ジャパンに帯同。また、DAZNの日本事業立ち上げ時にはローカライゼーションも担当した。

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