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IOCロゲ元会長。12年間の「功と罪」【二宮清純 スポーツの嵐】

Text:二宮清純

「TOKYO 2020」

 鬼籍に入ると急に評価が高くなるのは、どの業界も同じである。

 いささか旧聞に属する話だが、今年8月29日、国際オリンピック委員会(IOC)は前会長のジャック・ロゲ氏の死去を発表した。79歳だった。

 ロゲ氏と言えば、2013年9月にアルゼンチンのブエノスアイレスで開かれたIOC総会において「TOKYO 2020」と書かれたカードを手に、20年夏季五輪大会(21年に延期)の開催都市を発表したことにより、日本でもすっかりお馴染みになった人物である。

 ロゲ氏はベルギー出身の医師。選手としては五輪3大会(68年メキシコシティー大会、72年ミュンヘン大会、76モントリオール大会)にセーリング競技で出場している。

 91年にIOC委員となり、01年7月、モスクワでのIOC総会で第8代会長に選出された。前任者は21年間に渡ってIOCに君臨したフアン・アントニオ・サマランチ氏だ。

 ロゲ氏の最大の功績は、自らが07年に提案し、10年にスタートした14歳から18歳までのアスリートが対象のユース五輪の創設だろう。

 五輪を研究する一橋大学大学院の坂上康博教授は、この夏、私との対談で、こう語った。

<僕は、オリンピズムの思想を具現化しているのは、14~18歳の選手が参加するユース五輪だと思っています。そこでは国籍や性差を超えたチーム競技もあり、文化・教育プログラムでは地球環境問題などを議論し、みんなで学び、本当に友好を深めて帰っていく。クーベルタンが描いた理想に近いのが、このユース五輪だと思います>(「中央公論」2021年9月号)

 またロゲ氏は肥大化する商業主義や巧妙化するドーピングに対しても厳しい視線を向けていた。

 サマランチ時代の“金満五輪”に一定の歯止めをかけた点は、評価に値する。

 その一方で、見通しの甘さについても指摘しておきたい。

 01年7月、08年夏季大会の開催都市に中国の北京が選ばれた直後、IOC会長に就任したばかりのロゲ氏は「五輪を開催することが中国の人権と社会関連の改善に大いに役立つことは明白だ」と述べた。

 果たして、結果はどうだったか。その後のウイグル族や香港の民主化勢力に対する「弾圧」を見れば、「人権と社会関連の改善に大いに役立つ」どころか、中国政府をより強権的にさせたのは明白だ。

 夏の次は冬。世界の厳しい視線の中、北京での2度目の五輪は来年2月に開幕する。

(初出=週刊漫画ゴラク2021年11月26日発売号)

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