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五輪巡り米中緊迫。ブッシュの大誤算【二宮清純 スポーツの嵐】

Text:二宮清純

北京夏季五輪の開会式に参加

 12月初旬、米バイデン政権は来年2月に開幕する北京冬季五輪・パラリンピックに、政府の代表を派遣しないことを正式に表明した。いわゆる「外交ボイコット」である。それに追随する国もいくつか出てきた。

 さして驚きはない。というのも、この5月に与党・民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長が、中国・新疆ウイグル自治区の少数民族に対する人権侵害を理由に、「ジェノサイド(民族虐殺)が今も続く中、各国首脳が(北京五輪・パラリンピックのため)訪中などすれば、今後いったいどういう道徳的な権威を拠りどころに、世界の人権状況について発言できるのか」と外交ボイコットを、ほのめかせていたからだ。

 人権重視を掲げるバイデン政権にとって、中国政府による新疆ウイグル自治区での人権侵害、香港の民主化勢力に対する弾圧は、看過できる問題ではない。そこを素通りして、のこのこ北京に出かけていけば、それこそ世界中の物笑いの種である。

 記者会見でジェン・サキ報道官が「(外交ボイコットは)人権侵害が行なわれている状況下では、通常どおりに対応するわけにはいかないというメッセージになる」と述べたのも、当然といえば当然か。

 米国には苦い記憶がある。北京夏季五輪・パラリンピック開幕を5カ月後に控えた2008年3月、チベット旗を掲げた僧侶らのデモを、武装警察が暴力で鎮圧するという事件が起きた。この時もペロシは、中国を強く非難し、ダライ・ラマ14世との会談のため、チベット亡命政府のあるインドのダラムサラにまで赴いている。

 当時の米国大統領はジョージ・W・ブッシュ。海外の人権団体から外交ボイコットを求める声が上がったが、彼は「米国人選手を応援するため」と理由を付け、ローラ夫人とともに開会式に出席した。

 これが中国政府にチベット弾圧のお墨付きを与えてしまった。後年、ブッシュは「開会式出席は失敗だった」と語ったというが、もう後の祭りである。

 同じ失敗はIOCも犯している。01年7月、08年夏季五輪開催都市に北京が選ばれた際、IOC会長のジャック・ロゲ(当時)は「五輪を開催することが中国の人権と社会関連の改善に大いに役立つことは明白だ」と述べた。

 結果はどうだったか。その後の新疆ウイグル自治区や香港を見れば明らかなように、中国政府は「内政干渉」を盾に、ますます強権的になっている。どこが「平和の祭典」なのか……。

(初出=週刊漫画ゴラク2021年12月17日発売号)

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