「昨年よりも飛ばないという印象」
メジャーリーグのホームラン数が減少している。
2019年には1試合平均2・79本だったホームラン数が、今季は2・10本(現地時間6月20日時点)。昨季から採用された反発係数の低い新仕様のボールが原因ではないか、と見られている。
昨季、46本を放ち、ア・リーグの3位に付けた大谷翔平(エンゼルス)も、今年は13本と物足りない。
「昨年よりも(ボールが)飛ばないという印象がある」と大谷。スタンドに飛び込んだと思われる打球が、フェンス前で失速したシーンを何度か目にした。
そんな中、気になるコメントを見つけた。メッツのエリック・チャベス打撃コーチの感想だ。
「全米中継される試合のときだけ、ボールが違うと言っている選手やコーチがいる。今季は104~105マイル(約167~170キロ)の速度と適正な角度で打った打球が飛ばず、視聴者の多い全米中継試合のときだけ、95マイル(約153キロ)で打った打球がフェンスを越える」(日刊スポーツ6月15日付)
にわかには信じられない話だが、一笑に付すこともできない。昔、日本でも同じような話を耳にしたことがあるからだ。言葉の主は70年代から80年代にかけて活躍したパ・リーグの投手。
「今日のボールはよう飛ぶな、と思って“なんでや?”と審判に聞いたら“全国中継があるからやろ”と。当時、パ・リーグの試合は全国中継どころか、テレビ中継が、ほとんどなかった。ホームランがポンポン出た方が、試合は盛り上がる。ひいてはパ・リーグの人気向上につながるという発想があったんやろう」
――飛ぶボールと飛ばないボール、どうやって使い分けていたのか?
「あくまでもウワサ話やけど、飛ぶボールは試合前に冷蔵庫に入れて、しばらく保管しておったらしい。そうするとボールの中心にあるコルクの芯を巻く毛糸がキュッと固まって反発力が増すというんや。“使うんならウチの攻撃の時だけにしてくれ!”と冗談言ったこともあるよ(笑)」
野球は8対7がいちばん面白い――。かつて、そう語ったのは第32代米国大統7のフランクリン・ルーズベルトだ。
経営者はファンのニーズに敏感だ。打撃戦を演出する上で“飛ぶボール”は欠かせない。しかし、あまりにもホームランや打点が増え過ぎると打者の年俸は天井知らずとなり、球団経営を圧迫する。
コロナで経営体力を奪われたMLBが昨季“飛ばないボール”を導入したのも、わからないではない。
※上部の写真はイメージです。
初出=週刊漫画ゴラク2022年7月1日発売号