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野村克也と森保一。 “メモ魔”の采配力【二宮清純 スポーツの嵐】

Text:二宮清純

ノートは「僕の財産」

 現役時代、“メモ魔”と呼ばれたプロ野球選手がいる。南海などでキャッチャーとして26年間プレーした野村克也だ。名選手にして名伯楽でもあった。

 ノムさんの実績については、あらためて説明の必要もあるまい。通算安打、本塁打、打点、塁打数は、いずれも歴代2位。戦後初の三冠王に輝いたのもノムさんである。

 監督としては南海とヤクルトで計5回のリーグ優勝と3回の日本一を達成し、“知将”の異名をほしいままにした。

 さてノムさんは何をメモしていたのか。

「私は頭が悪いもんですから……」

 謙遜しながら、生前、ノムさんはこう答えたものだ。

「主に相手バッターの特徴と傾向ですね。どの球種、どのコースが得意で、どこが苦手か、あるいはカウントによって、どんなバッティングをするか。打球方向についても、克明にチェックしました。フォーメーションなど野手に指示を出さなければいけませんから」

 ノムさんはコントロールの悪いピッチャーを好まなかった。有効なデータを積み上げることができないからだ。

 統計学に基づいた野球、それがノムさんの標榜したID野球の正体だった。

 サッカーの世界では日本代表監督の森保一が、“メモ魔”として知られている。

 カタールW杯で使用したノートを私も見せてもらったが、折に触れ、気がついたことを書き込んでいた。中には「日本に不可能はない」といった精神訓のようなものもあった。

 ハーフタイムには、ノートに書き込んだ事柄が正しいか否か、コーチと答え合わせをしてから選手たちに伝えた。第三者のフィルターを通すことで、指示の精度を上げようとしたのである。

 森保がメモを取り始めたのは、サンフレッチェ時代のGM今西和男の指導に依る。

 外国人選手から「そんなに細かく練習ノートをつけて、お前はもう指導者になるのか?」と驚かれたこともあったという。

 自身も現役時代からメモを取り続けていた今西は「聞く、話す、書く、そして考える。これは基本中の基本。森保には選手だけで終わってほしくなかった。そこから先の人生でも成功してもらいたかった」と語っていた。今西の親心が実を結んだのだ。

 野球に限らず、サッカーに限らず、現役選手にはメモを取ることを薦めたい。自己との対話は成長を促し、成功を近付ける。森保は膨大なノートの山を「僕の財産」と語っている。

※上部の写真はイメージです。
初出=週刊漫画ゴラク2023年2月24日発売号

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