創設3年目で初のリーグ優勝
プロ野球独立リーグ・ルートインBCリーグの4月の開幕から、西岡剛選手が在籍する栃木ゴールデンブレーブスの情報をお届けしてきましたが、今月で最終回です。
ブレーブスは創設3年目にして念願のリーグ優勝を果たし、独立リーグ日本一をかけて挑んだ日本独立グランドチャンピオンシップ(GCS)では、あと1歩のところで敗れたものの、リーグ戦終盤の8月末から、10月半ばまでのおよそ2か月、快進撃を続けました。そして、10月27日の球団イベントをもって、2019シーズンの活動が一区切り。チームに残留する選手、移籍する選手、引退する選手など、早くもそれぞれの道に歩みを進めています。
今回は、ブレーブスの優勝シーンを西岡選手のコメントと共に振り返ります。
後期優勝までマジック1で挑んだ9月5日の茨城アストロプラネッツ戦。チーム初となる優勝を球場で後押ししようと、平日にも関わらず多くのファンが詰めかけ、ホームゲームさながらの大声援が送られました。
先発の斎藤誠哉投手(元福岡ソフトバンクホークス)の6回1失点の好投から、最後はリリーフエースの金本享祐投手が最後の打者を三振に仕留めて、ゲームセット。選手たちがマウンドに駆け寄り喜びを爆発させました。
この歓喜のシーンには2つの裏話があります。この日の試合前、西岡選手は同じ関西出身で気心の知れた後輩の金本投手に「(優勝の瞬間は)ゴロより三振で決めたほうがかっこいい」とアドバイス。金本投手は、リードする秋庭蓮捕手に「最後はバットを振らせる球を投げさせて欲しい」と要求。つまり、西岡選手の筋書き通りの勝利の瞬間だったようです。
そして、その時ベンチから飛び出す西岡選手を捉えようと私はカメラを構えていましたが、西岡選手は打者がバットを振り始めるのと同時にフライング気味でベンチ前からダッシュ。すぐに画像を確認するとややフレームアウトしている姿が…。金本投手が奪う三振を予期していたスピードスターをフレームに収めるのは至難の業でした。
東地区での後期(半期)の優勝を果たしたブレーブスは、地区優勝をかけ、常勝チーム・強敵の群馬とのプレーオフ(3戦2勝)へ。リーグ戦において、12球団ダントツの73本塁打、456打点を誇る群馬に対し、ブレーブスは32本塁打、348打点。寺内崇幸監督が掲げる「つなぐ野球」で競り勝ってきたブレーブスがどう戦うのか。
誰もが苦戦することを予想していましたが、終わってみれば2連勝。しかも2試合で、西岡選手の2ランHRを含む6本塁打などで20得点。強打の群馬に打ち勝ったのです。小山市のホーム球場で地区優勝を決め、寺内崇幸監督の胴上げのあと、チーム最年少の新山進也選手から「西岡コール」が起こり、戦う姿勢でチームを引っ張ってきた西岡選手が宙を舞いました。
「頑張っている若手もいるし、僕よりも打っている外国人のルーカス(ホジョ選手)もいるし、僕じゃないと思ったんですが、まあ、素直に嬉しいですね」と試合後の取材で、珍しく照れ笑いを浮かべていました。
日本独立グランドチャンピオンシップへ
9月22日からは東地区の代表として、西地区優勝の信濃グランセローズと短期決戦(5戦3勝)に再び挑んだブレーブス。勢いは止まることなく、まずはビジターゲームで2連勝。翌週はホームに戻り、引き分けを挟んで、「無敗」のまま、リーグ優勝。BCリーグ11球団の頂点に上り詰めました。その後、独立リーグ日本一をかけた「日本独立グランドチャンピオンシップ」(10月5日~、5戦3勝)においては、四国アイランドリーグplus覇者の徳島インディゴソックスと初対戦。5試合中4試合が1点差ゲームと力は全くの互角でしたが、残念ながら2勝3敗で、頂上にはあと一歩及びませんでした。
就任1年目の寺内崇幸監督は全選手の活躍を称えつつ、「剛がいてくれて本当に助かりました。調子が良い時も悪い時も、あれだけのプレーができるのはさすがです」。若い指揮官にとっても、西岡選手の存在が大きかったことは間違いありません。
BCリーグという全く新しい環境で野球をしてきた今シーズン。開幕前から「勝つこと」にこだわり続けてきた西岡選手にとって、BCリーグでの優勝は、どんな意味をもつのでしょうか。徳島でのラストゲームから2週間ほど経ってようやく直接お話を聞くことができました。
「小学生の時も小さい大会で優勝したし、高校で甲子園出場を決めたときも、プロに入ってからも優勝を経験しましたけれども、優勝が決まる瞬間っていうのはどの世界、どのレベルであっても同じ気持ち。嬉しい反面、ほっとして緊張から解かれる。あれは現場にいないと味わえない瞬間。BCリーグでもその経験ができたというのは、僕の人生にとっても大きなプラスになる。
3年目にしてチームが優勝できたことは本当に誇りに思いますし、自分が1年目にして優勝メンバーに名を連ねることができて光栄に思います。最後(GCSで)勝てなかったことは残念ですが、あそこまで(勝ち進んで)この仲間と野球をできたことは良かったです」
若いチームの成長に関して、監督コーチとは違うので自分が指導することはないとしながらも、「剛さんにさりげなく言われた」ことを意識して調子を上げていった選手も多数いました。
「僕が試合に出て球場にいるときは、他の選手は緊張していたと思います。少し怖い存在であったかもしれないですけど、1年間戦っていく上では、そのメリハリはとても必要なことだと僕は思っています。シーズンを戦い抜くためには、ただ繰り返しのような平坦な生活はしたくない。締まりがないのは良くないし、締め過ぎてもチームはうまく回らない。そこは監督コーチが調整してくれたと思う」と西岡選手は自己分析しました。
西岡剛は来季、どこで輝きを見せるのか
今後のことについて伺ったところ、じっと前を見据えたまま、声のトーンが一つ下がったような気がしました。「これからも野球を続けるということは間違いありません。野球を続ける以上は、NPBを目指すということ。ただ、その過程はどうなるかはわからない。選択肢の中には、BCリーグももちろんありますしね。」
海外も視野にいれているのかを尋ねると「僕はメリハリがなくなるのが苦手なので、海外には(トレーニングもかねて)行きたいと思う。ありがたいことに僕はそれができる(経済的な)状況にあるので、環境を変えて、しっかりと来年1年戦える準備をしたい。」とのこと。
徳島でのGCSが終わってすぐに、来期に向けてのトレーニングを始めた西岡選手。「オフをどう過ごすかで、次の1年が決まる。プロ野球選手にオフ(休み)なんて無いですよ。オフっていうのは休む時期じゃない。11月も12月も1月も、ずっと準備期間です。」
最後に、今季は遠方からのファンの来場も多かったことについて「本当にありがたいことです。大阪とか京都とか遠くから、貴重な時間とお金を使ってきてくれる。僕に使ってくれているわけですよね。それで試合を見て、プレーを見て喜んでくれているのが嬉しい。プロ野球選手としてこんなに嬉しいことはないですよね」。
取材を通して「剛さんファン」の方々とお話する機会が多々あり、みなさんが口にする‘剛さんの魅力’をまとめると「とにかく野球に対してまっすぐで、非常にファン思いのツンデレキャラ」でしょうか。徳島でのGCS後、ナイター試合で23時近かったにも関わらず、見送りまで待っていたファンに対し、急きょサイン会を実施。長蛇の列ができていましたが、その先で黙々とサインをする姿に「これが西岡選手なのだな」と思いました。
栃木でもチームの内外でその実力と魅力を発揮した西岡選手、来シーズンも栃木にいてほしいという思いと同時に、本人が望む輝ける場所へ、そして、いつまでも野球場で、シビアなまなざしと屈託のない笑顔を見せてくれることを願います。
※西岡剛選手は、11月12日に12球団合同トライアウトに参加予定。
1シーズン、お付き合いいただきありがとうございました。来季も球場で栃木ゴールデンブレーブスとBCリーグの応援をよろしくお願いします!
※写真は特記以外は著者撮影