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野球人生の岐路に立つ鳥谷敬。阪神名スカウトが明かすその「素晴らしい才能」とは?

Text:蔵建て男(構成・菊地高弘)

長年にわたってスカウト的観戦を続ける蔵建て男が、球団スカウト・編成担当者を直撃インタビューする名物企画。
今回はプロ経験がないにもかかわらず、25年間も阪神スカウトを務めた菊地敏幸さんが登場する。第3回は野手編。

タイガース名スカウトが惚れ込んだセットアッパーとは?(別タブで開きます)

■菊地敏幸(元・阪神タイガーススカウト)③人気球団特有の難しさとは

 野手のなかでは赤星憲広を担当されています。
菊地 赤星はやれる確信がありました。ただ、足はとんでもなく速いのに、ポップフライばかり打ち上げていたんです。当時、アマチュア選手数人がプロのキャンプに派遣されていて、赤星は阪神キャ ンプに参加したんです。そのときも首脳陣の印象はあまりよくなかった。
その後、JR東日本の練習を見に行ったら、打撃練習で赤星が150キロのマシンをライナーでしっかり打ち返していました。 本来は打つ力があるのに、叩きつけようという意識が強いばかりにかえってフライになっていたんで す。ちょうど新庄剛志が抜けるタイミングでもあったので、赤星を獲りました。ただ、後年になって 監督の野村克也さんが「俺が獲れと言った」とコメントしていて驚きましたが(笑)。

 赤星は4位指名でしたが、菊地さんは4位以下で高校生は指名したくない考え方だそうですね。
菊地 プロに行けるときに行くべきという考え方もありますし、他球団には「将来の大物を安い契約金で獲るのがスカウトだ」と言うスカウトもいました。でも私は、下位で高校生をほとんど獲ってい ません。プロから評価されるほどの選手なら、大学、社会人からも評価されるはず。
進学、就職することは遠回りではなく、人とのつながりを作り、人間としての幅を広げてくれます。たとえプロに行 けなくても、本人にとって生きるというのが私の考え方です。阪神は育成選手で高校生を獲ることも ありますが、当たったのは島本浩也くらいですよね。

 阪神で活躍するということは特有の難しさを感じます。
菊地 阪神の選手は内面がしっかりしていないと危ないです。2軍で少し活躍しただけで在阪メディアに取り上げられて、スター扱いを受けますから。その点で素晴らしかったのは鳥谷敬です。早稲田 大では争奪戦の末に苦労して逆指名を勝ち取った選手でしたが、彼には努力する才能があった。
「走攻守すべて80点」という自己評価でも、それを長年維持した。今年(取材は19年)で阪神を退団しますが、ここまでやってこられたのは間違いなく彼の努力です。


19年限りで退団する鳥谷敬。東京都出身で
関西とは無縁だったが、逆指名に成功した

 阪神の強い時代も弱い時代も経験したことで、チームが弱体化する要因を感じますか?
菊地 弱い時代は現場とスカウトの間に溝がありました。現場は「なんでこんな選手を獲ってきたんだ」とスカウトを責め、スカウトは「全然育ててくれない」と現場を責める。そうなると中長期的な 視点がなくなって、目先の即戦力に走ります。
ある年には社長の「1位は〇〇でいきます」という声で1位が決まりました。その選手はスカウトがあまり強く推薦していなくて、人柄はよくても活躍はで きませんでした。

 こんな人がスカウトに向いていると感じる要素はありますか?
菊地 モノではなく、人を扱う仕事です。野球を見る目はプロ経験があろうとなかろうとあまり変わりませんが、仕事の半分は営業のようなもの。人と接することが好きな人がいいと思います。そうじ ゃないスカウトもいましたが、私はそういうやり方でした。

次回「菊地敏幸(元・阪神タイガーススカウト)④プロ選手経験がなくても結果を残した仕事術」へ続く
(初出:【野球太郎No.033 2019ドラフト総決算&2020大展望号 (2019年11月27日発売)】)

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