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29年ぶり五輪勝利から始まった日本男子バレーの冒険の終わりと世界に刻んだ龍神の爪痕【東京オリンピック】

冒険の終わりと未来へ残した龍神の爪痕

【河野裕輔のエール!第7回】東京オリンピックラストゲーム ブラジル戦振り返り

元日本代表でJTサンダーズでも活躍した河野裕輔さんによるコラムです。第7稿は、男子日本代表の東京オリンピックラストゲームとなったブラジル戦について。


◆冒険の終わり
2021年8月3日 遂に龍神NIPPONの冒険が終わりを迎えた。相手はブラジル。0-3のストレート負け。しかしこの試合は、セットカウントだけで語るにはあまりにも「もったいない」試合だ。その内容を振り返っていこう。

◆今日も好調なレセプションでサイドアウトを取り、サーブで攻めて喰らいつけ!

いきなりポジショナルフォールト(ポジション間違い)の反則を取られた龍神。そのままルカレッリのサーブで0-3まで走られる。龍神のファーストサーブは西田有志。今日もサーブで攻めていく龍神のスタイルだ。しかし石川祐希のブロックや相手のミスもあり、序盤から大きく離されずに試合は進める事ができていた。そしてローテーションが1周した8-10の場面で西田のサービスエース。2セット目の開幕も西田のサービスエース。そしてレアルのフローター系変化球の返球率が良くないというデータから、小野寺太志/山内晶大は徹底してレアル狙いでサーブ効果率を上げていった。

ラリーの決定率はどうしてもブラジル優位になってしまっている。ラリーに持ち込ませずにサイドアウトを取り、サーブで攻めることにより点差を詰め、リードを奪うことが一番楽な展開で勝てるストーリーであると予想していたが、やはりブラジル。勝負所で必ずポイントを取りに来るため点差が埋まらない。

しかし龍神たちはここからが従来とは違った。決して大崩れをせず、サイドアウトを繰り返すことにより、じっとチャンスを待つことができていた。ブラジルであろうがポーランドであろうが文字通りチーム一丸となってレセプション(サーブレシーブ)を耐え、ブロックで耐え、ディグ(スパイクレシーブ)で耐える。そうした少ないチャンスを得点に結びつける力が、今の龍神達にはあった。レセプションからのサイドアウトだけでなく、トランジション(スパイクレシーブからの攻撃)に持ち込まれても「いい状態」を作り出し、ポイントにする力があるのだ。それにより引き離されることが少ない試合展開に持ち込めた。


◆世界王者 ブラジル
ここでブラジルはなぜ強いかを考えてみた。要因は大きく3つ

・個の基礎スキルが高い
これは日本が下手とかそういった話ではない。ブラジルは「全員がセッター」のような印象を受けた。OH(アウトサイドヒッター:レフト)だけではないOP(オポジット:セッター対角で攻撃専門のポジション)やMB(ミドルブロッカー:センター)に至るまで総じてセカンドタッチがハードヒットできるセットになる確率が高かったように思う。ブロックについても移動の速さ、手の出し方について全員がハイレベルであった。両サイドのハイセット処理能力についても素晴らしかった。

・攻撃手段の豊富さ
ブラジルのバックアタックにはタイミングが2つある。ファーストテンポのバックアタックともう少し早い(マイナステンポまではいかない)バックアタックだ。これを様々なスロットで「ほぼ毎回」やってくるので相手は常に4枚を意識するブラジルにとっては優位な状況を作りやすい

・アウトオブシステム(システムが使えない)時のハードヒット
実はこれがキーになっているのでは?とも思っているのだが、Cパス(セッターに返らないサーブレシーブ)になり、4枚攻撃のシステムが使えない状況になった場合の処理能力がものすごく高い。システムが使えない状況なので体勢も完全ではないのだが、打つコースとスイングスピードでブロックに当てて出したり、「これは打てないだろう」といったボールも打ち込んでくるため、油断ができない。

もちろんこれがすべてでは無いが、私が主に感じたのはこの3点であった。

◆世界に刻んだ龍神の爪痕
29年ぶりのオリンピック勝利を挙げた龍神達が、なぜ世界王者ブラジルを相手に各セット20点以降の戦いに持ち込むことができたのか。代表的なものを上げていきたい。


・主将・石川祐希
彼の存在は本当に大きい。それは技術的・精神的両面において龍神NIPPONの大黒柱となってくれたからだ。毎セット全員とのハグから始まるルーティン、ポイントを取った時だけでなく失ったときにもコート中央でハドルを組み、全員の意思を統一する。素晴らしいキャプテンシーに敬意を表したい。そして攻守の中心となるだけでなく、3セット目終盤の意地のサービスエース。石川の、日本のプライドを見たようで鳥肌が立った。

・レセプションから高確率で取れるサイドアウト
ここは声を大にして言いたい。ブラジルからサーブポイントを取られていないという事実を。あのブラジルの強力なサーブに対し1本もエースを許さなかったことは賞賛に値するであろう。19歳の高橋藍が一角を担ったが、素晴らしいディフェンス力。そしてそのレセプションをさばく関田誠大、藤井直伸のセッター陣がうまくMBの小野寺、山内、Bickを絡めることにより、コート中央のスロットを使える場面では、ブラジルも1枚や1枚半のブロックになっていた。いろいろなスロットからの攻撃を仕掛けることにより、少しでもブラジルのリードブロックシステムを崩そうという意図が見えた。そして西田。彼のいいところは、試合の流れが悪いときにその流れを切ることができるポイントゲッターであると私は考える。連続失点でずるずる行きそうな時に、目の覚めるようなスパイクで流れをリセットしてくれる。素晴らしい仕事を見せてくれた。


・進化し続けたトータルディフェンスとシステム外ディフェンス
このコラムでも何度か書いているが、サーブ・ブロック・ディグの連携が今の龍神の土台を支えている。ブラジルのあの多彩な攻撃に対ししつこくブロックにつき、コースを絞り、ディグで繋げる。小野寺、山内の両ミドルの、ブロックについていく献身的な働きも素晴らしかった。リベロ山本智大は、トータルディフェンスが機能していない時でも何とかして上に上げるディグをすることにより、チームを何度も救った。

◆総括して
これで龍神NIPPONの冒険は「一旦」終わることになる。

ブラジルを相手にして、すべてのセットで20点以降の戦い。スパイクも、ブロックも、サーブも通用した。ディグも拾えていた。レセプションに至っては被エース0本。龍神NIPPONは素晴らしい成長を見せてくれたといっていいだろう。今回のオリンピックでは29年ぶりの勝利、決勝トーナメント進出という素晴らしい冒険だった。この冒険の続きを見るためには、もう一段階進化した龍神になる必要があるようだ。技術しかり、戦術しかりだ。

ただしそれは以前のような夢物語ではない。十分到達可能な「目標」なのだ。

十分やれるという実績も残してくれたし、次の進化をするために必要なヒントも提示してくれた。今からの龍神NIPPONだけじゃない、Vリーグや大学、高校カテゴリまですべてのカテゴリに対して、今回の龍神NIPPONの戦い方は良いお手本になるのではないだろうか。

今後は日本バレー界全体が進化していく時間だ。選手も、指導者も今後の日本代表チームで必要なスキルを求められていくのだろう。「教科書」が変わった今、「学び手」も変わらなければならない。

今回の龍神達が開いてくれた新しい扉を、もう閉ざすことの無いように。


◆最後に
代表引退を表明された清水邦広選手に対しお疲れ様!とありがとう!を。

オリンピック開催にあたり、各国選手・スタッフの皆様、関係者各位に深い敬意と感謝を。

河野 裕輔 プロフィール

河野 裕輔(かわの ゆうすけ)

1975年8月1日生まれ ポジション OP.OH 古河4ますらおクラブ-古河2中-足利工大附高(現足利大附高)-中央大学-JTサンダーズ(現JTサンダーズ広島) 現在社業の傍ら、V.TVにて解説者、オーカバレーボールスクール埼玉校にてコーチ業を勉強中。

文責:河野裕輔

写真:FIVB

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