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8つの構造をトレーニングに生じさせることで生まれる効果とは!?【ダイヤモンドオフェンス】

Text:坂本圭

認知構造(チームの戦略・戦術の最適化)

●優先シミュレーション状況(SSP)とは
優先シミュレーション状況は、構造化トレーニングを実践するためのトレーニングメニューである。人間は自己構造化(自ら学ぶ力を持つ)する生物であると考えることから優先シミュレーション状況の考え方は出発している。選手の知識の習得は、自身の興味と必要性に基づいて行動し体験することで生きた記憶としてトレーニング内容が定着する。それは選手がトレーニング内容を理解し、積極的に参加することが前提である。なぜなら選手(人間)は、自らを教育する考案者であるからだ。

優先シミュレーション状況の指導者が考慮するポイント
●発見学習(選手自ら解決策を発見することができるような質問)
●体験学習(試合の状況を設定したトレーニングを体験し、選手がプレーを成功することで学ぶ)
●暗示的学習(直感的、無意識的行為、身体で覚える「手続き記憶」でプレー状況を解決する)
●非介入主義(選手自ら解決策を発見させるために、できる限りトレーニングを止めないようにする。質問も最小限にする。プレー時間を長くする)

●8つの構造をトレーニングに生じさせる
優先シミュレーション状況では、特定のトレーニングの状況で、関連する構造(8つの構造)の全ての要素を生じさせる必要があり、それらの特定の状況で優先的に刺激する構造がある。これはまたそのように選手の考え方をも刺激する(トレーニングの内容によっては8つの構造の全てを含まないこともある)。

もう1つは、選手がトレーニング中に各構造のシステム間(構造間)で相互作用することで、絶え間なく複雑な構造を自然に形成する「自己組織化」が起こることである。これは生物の特性であり、1人1人の人間は異なるので、各選手がトレーニングを通じて異なる最適化をする。選手は同じトレーニングをしても、個々の選手は異なるパフォーマンスをする。選手は優先シミュレーション状況を通じて、絶え間なく自己組織化して、その結果として創発が起こり、それが即興プレーとして現れる。

優先シミュレーション状況を実践する理由は、ある特定の構造を優先した試合の状況に類似したトレーニングを実践することによって、選手に「生きた記憶」として脳にその内容を記憶させるためだ。試合の状況に類似したトレーニングをすることで実際の試合でその状況に適合するプレーや動きを無意識的に選択し有効的に発揮できるようになる。

 監督・コーチは、トレーニングしたい内容によって、優先する構造を決め、その上で試合の状況をシミュレーションすることができるトレーニングメニューを作成する。試合の状況をシミュレーションするとは、試合で実行するアクションに類似したアクションをシミュレーションすることも含まれる。その場合、ボールなしでも可能であるが、できればボールを使い、可能な限り相手をつけることで選手は試合をイメージすることができる。例えば、相手が背後にいる状況で選手がボールをキープする場合、片足でボールを保持する。この時、選手は固有受容感覚(身体のバランスを取るため)が必要になる。優先シミュレーション状況を実践する理由はこのようなところにもある。

 優先シミュレーション状況は3つに分けることができる。

①チームの戦略・戦術の最適化
②技術・コーディネーションの最適化
③生物的エネルギー・コンディションの最適化

ダイヤモンド・オフェンスは、チームの戦略・戦術を最適化するトレーニングをするので優先する構造は認知構造と社会的感情構造である。コーディネーション構造とコンディション構造は、主にトレーニングにおいて認知構造と社会的感情構造をサポートする。

●チームの戦略・戦術の最適化をするために考慮するポイント
▷チーム戦略・戦術を最適化することを優先する
▷優先する構造(認知構造、社会的感情構造)
▷メンタル構造はトレーニング時、認知構造に含まれる

認知構造と社会的感情構造を特にサポートするのが、コンディション構造(サッカー特有の持久力、スピードなど)、コーディネーション構造(技術・コーディネ ーション能力)である。構造化トレーニングは優先順位のみを考慮に入れて、優先シミュレーション状況を構築する。


チームの戦略・戦術の最適化の主な目的はシステム内の構造(認知構造と社会的感情構造)を刺激するトレーニングをすることで、2つの構造のシステム内を最適化することである。

この2つの構造のシステム内を最適化しながら、そのほかの4つの構造と相互作用するトレーニングメニューを構築することで、システム間(構造間)の最適化が可能になる。

例えば、トレーニングの目的と合致する、ある特定の試合の状況を設定することで、認知構造と社会的感情構造は最適化される。

その他にトレーニングメニューで考慮される4つの構造がある(コーディネーション構造、コンディション構造、感情・意思構造、創造的表現構造)。

試合の状況を設定したボールポゼッションのトレーニングであれば、サッカー特有のスピードと持久力が身につく。これはコンディション構造を刺激している。

ボールポゼッションにはパス、ドリブル、コンドゥクシオン、ボールコントロール、ボールキープ、タックルなどの技術や、ボールポゼッションに必要な選手個々のアクション(マークを外す、マーク、その他ボールポゼッションに必要なステップワークなど)のコーディネーション構造を刺激している︒

感情・意思構造は前述しているので省略する。創造的表現構造は、例えば、ボールポゼッションは2タッチ以内などのルールを設けると、それによる良い点と悪い点があることを考慮しなければならない。良い点は選手のサポートと意思決定が速くなり、ボールコントロールも改善する。悪い点は、試合の状況から少し離れることで、選手の創造性を制限していることである。

試合にタッチ制限はないので、これらの点を考慮して指導者はトレーニングを構築しなければならない(2タッチ以内などのルールが悪いわけではなく、何かの目的を達成するためにはそのルールも良いが、常に2タッチ以内という同じルールだと試合の状況からは遠くなり選手の創造性が制限される)。

人間は、まばたき以外2度と同じ行動はできないので、トレーニングにおいては「高い多様性の内容」がある状況を設定しなければならない。これによって全ての構造を刺激し「高い可変性のある実践」ができ、多様性と可変性が選手間の動的な相互作用を引き起こし、選手の自己組織化のプロセスを刺激する。

構造化トレーニングの考え方は、選手間の相互作用のプロセスから各選手の能力を開発する。なぜなら選手1人1人は異なる人間であり、異なる最適化をするからである。

出典:『ダイヤモンドオフェンス サッカーの新常識 ポジショナルプレー実践法』坂本圭

『ダイヤモンドオフェンス サッカーの新常識 ポジショナルプレー実践法』
著者:坂本圭

日本ではまだ珍しいサッカー攻撃の概念・ポジショナルプレーを取り入れた戦術書!!スペインのプロチームでコーチライセンスを獲得した著者が、サッカーを勉強したい学生や指導者、日本式ではなく世界のトップシーンで導入されている新しいサッカーの攻撃方法を実践したいと思っている方々のために、ポジショナルプレーを実践するための方法としてダイヤモンドオフェンスを伝授します。