テニスは不等式でできている
●田中信弥/元オリンピック&日本代表コーチ
ちょっと大切な話をします。 多くの人は知りませんが、テニスは不等式でできています。
『予測 > 判断 > 動き > 打ち方』
「予測 > 判断 > 動き > 打ち方」という順番で、もちろん上から順に力が強いわけです。我々は本能的に、ボールを打つことにいちばん興味を持ちます。「上達=ボールをうまく打つこと」と、無意識に考えたりもします。ですが、我々がいちばん強く興味を抱く「打ち方」は、試合結果にいちばん影響力を持たないのです。「そんなバカな! 勝つためにいちばん必要なのは、ボールをうまく打つことだ」と、心の中で反論したかもしれません。
当然、ボールをうまく打つことは大切です。なので、疎かにしろという話ではないのですが、仮に錦織選手と同じテクニックをあなたが手に入れても、「予測 > 判断 > 動き > 打ち方」の不等式を知らなければ、錦織選手と同じ戦績を叩き出すことはまったくもって不可能なのです。
今から、それを証明します。話を理解してもらうために、極論で言いますよ。いいですか?「実は、今のあなたの打ち方でも、あなたは錦織選手に勝てます。あなたの打ち方をうまくすることなく、不等式に習えば錦織選手に勝ってしまうのです」
この話をし出すと、聞いたウィークエンドプレーヤーの方は、大抵は笑います。そんなバカなことはありえないといった表情を、顔いっぱいに広げながら。そして、穏やかに言うのです。「またまた田中さん、ご冗談を。フフフッ」
そこで、私は本題に入ります。「錦織選手にお願いして、両足に100キロずつの重りをつけてもらってください。合計200キロ。たったそれだけで、あなたは100パーセント錦織選手に勝てます!」
おわかりですね。錦織選手は一歩も動けません。なので、あの世界最高峰のきれいな打ち方は、まったく役に立たなくなるのです。あっ、と顔色が変わったウィークエンドプレーヤーに、私は続けて言います。「錦織選手は一歩も動けない状態で、あなたが打つボールをどのように返球するのでしょう?返球どころか、あなたが打つボールのそばに近づくことさえできません。なので、あなたの打つボールが、錦織選手のわずか1.5メートル横に飛んだだけでも彼は空振りする。あの世界最高峰の打ち方を見せながらも、あなたのショットに触ることさえできないのです」
ここでは話を見えやすくするために、極端なハンディキャップをつけました。ですが、本質はテニスの不等式の怖さを知ってもらいたいのです。対戦相手が錦織選手でなくても、足に重りを200キロつけなくても、同じ打ち方のレベルの選手がふたりいたら、動きのよいほうが勝つという事実を知ってもらいたいのです。
つまり、「打ち方」よりも「動き」のほうが優先順位は高い。動けなければ、いくら世界最高の打ち方をしていても宝の持ちぐされ。錦織選手が動けなければ、あなたが100パーセント勝つという話から、テニスの不等式の重要性を知ってもらいたいのです。
『新装版 勝てる!理系なテニス 物理で証明する9割のプレイヤーが間違えている〝その常識〟!』
著者:元オリンピック&日本代表コーチ 田中信弥
理論物理学者 松尾衛
元オリンピック&日本代表テニスコーチと気鋭の物理学者による常識を覆すテニス理論、指南書。5万人超のウィークエンドプレーヤーが納得した現場理論を、理論物理学で証明した、すべてのプレーヤーのテニスを躍進させる書。「サービズは上から下に打つのは間違い」「テニスは不等式でできている」「身体は動かさずに打つ」など、常識破り、型破りな指導法で結果を出し続ける田中コーチの独自のテニス理論を、理学博士の松尾氏が自ら体験で得たプレーを「物理屋」の観点で解説・証明する―――まったく新しいテニスの本!
公開日:2021.09.05