簡単!データテニスで勝つ方法
●田中信弥/元オリンピック&日本代表コーチ
試合前には、「大勝ち」と「大負け」を想像してください。自分の大勝ちパターンはなにか?大負けパターンはなにか? これを知っておくということです。
例えばサービスが強いのであれば、「ファーストサービスが入れば8割はポイントが取れる。するとサービスキープは楽々できる。それなら、リターンゲームでは思いきった攻めも……うまくはまれば大勝ちだ!」という感じで、大勝を想像します。
反対に大負けパターンは、「サービスが入らない……とくにファーストサービスが入らず、セカンドサービスを攻められる。ブレークされる。リターンゲームで挽回を図るが、得意な勝ちパターンではないので、借りてきた猫のようなプレーしかできない。うまくいかない。なにもかもうまくいかない。ボロボロ、大敗だ……」という感じです。
もちろん実際の試合は、大勝ち、大負けばかりではなく、その中間に収まることが多いわけです。ただ、こうして大まかであっても、両極端をデータとして取り込んでおくと、そこから足したり引いたりすることで、だいたいの試合パターンを想定することができるようになるわけです。
よくあるパターンのひとつが、次のようなものです。「得意のサービスは調子いいが、敵もさる者、それほど簡単にブレークはさせてくれない。5対4までサービスキープが続き、1ゲームリードで相手のサービスゲームを迎えた。そして、最後の最後にプレッシャーを感じた相手が凡ミスを連発し、結局、6対4で勝てた」いかがでしょう。
決して大勝ではありませんが、よくよく中身を分析すると、サービスキープはしっかりとしている。得意なサービスは存分に生かしている。大勝できなかったのは、相手サービスゲームを簡単にブレークできなかったから。なら、上々か。このような感じで、スコア的には接戦でも、やるべきことができた戦いではあったので、大勝に近いという分析となるわけです(ちなみに世界トップ選手の戦いは、このパターンが多いです)。
テニスは、すべてのポイントを取らなくても勝てるスポーツです。なので、全体像を見ること。全体で判断すること。大まかでいいのでデータ化すること。これらを行なうことが、勝ちにつながりやすくなります。逆に言うと、1ポイントで起こったことや、ひとつのショットに一喜一憂しないことが極めて大切なのです。
よく聞く悩みのひとつに、「バコバコに打ち込まれて負けました。なにもできませんでした」というものがあります。普通に聞くと、「そうかぁ、厳しい対戦相手だったね」で終わりです。でも、冷静に考えるとおかしいことに気がつきます。そもそも、ウィークエンドプレーヤーの試合で、バコバコに打ち込まれて負けるなんてありえない。対戦相手が、ナダル選手やフェデラー選手、錦織選手ならわかります。でも、実際は同等レベルのウィークエンドプレーヤーが相手。
すると、バコバコに打ち込まれて負けることなど、ありえないことがわかります。でも、本人はバコバコに打たれて負けたと言い張る。果たしてその背景にある真実とは?
錯覚です。数本しか決められていないのに、数十本も決められたように感じている。一種のパニック状態。冷静さを欠いたときの人間は、このような錯覚、間違いを、平気で事実と認識することがわかっています。本人は冷静に判断しているように思えても、実際は違うのです。ショックを受けたりパニックを起こしたりすると、動物脳(感情脳=大脳辺縁系)と爬虫類脳(生命脳=小脳)が活発に働き出し、人間脳(理性脳=大脳新皮質)の働きを極端に弱めます。なので、本人だけが冷静なつもりで、周りから見ればまったくもって冷静ではない。そのまま試合を続け、途中でまたバコッと打たれると、「うわぁ~、打たれまくってる……」と錯覚するわけです。
この話が本当かどうか、自分にも当てはまるのか? そう思った方に、おすすめの方法があります。自分の試合をビデオ撮影してください。そして、本数を調べます。「本当にバコバコに決められたのは、一試合を通して何本あったのか?」と。私の知る限りでは……かなり低い数字になるでしょう。
『新装版 勝てる!理系なテニス 物理で証明する9割のプレイヤーが間違えている〝その常識〟!』
著者:元オリンピック&日本代表コーチ 田中信弥
理論物理学者 松尾衛
元オリンピック&日本代表テニスコーチと気鋭の物理学者による常識を覆すテニス理論、指南書。5万人超のウィークエンドプレーヤーが納得した現場理論を、理論物理学で証明した、すべてのプレーヤーのテニスを躍進させる書。「サービズは上から下に打つのは間違い」「テニスは不等式でできている」「身体は動かさずに打つ」など、常識破り、型破りな指導法で結果を出し続ける田中コーチの独自のテニス理論を、理学博士の松尾氏が自ら体験で得たプレーを「物理屋」の観点で解説・証明する―――まったく新しいテニスの本!
公開日:2021.09.16