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フレームショット=下手ではない!フェデラーでもフレームショットを打てしまう理由とは!?【新装版 勝てる!理系なテニス】

上達したければ……待つ!

●田中信弥/元オリンピック&日本代表コーチ

テニス上達を実現する過程で、教育が大きな影響を及ぼすと感じます。もちろん、空振り、フレームショットを褒めたたえるのは、正しいスイングで振れていることが前提です。

フェデラー選手でさえ時々、フレームショットを打ちます。打ち方が悪かったのか? そうではない。タイミングが合わなかっただけ。打ち方は正しいけれど、たまたま1000分の3~7秒のインパクト時にタイミングがズレたため、フレームショットとなった。 空振りやフレームショットは、打ち方がいいのであれば、あと少しタイミングが違えば、最高のショットになりえるのです。

なのに、「げっ、フレームショット……」「空振りか!」と、吐き捨てるように言い、せっかく正しい打ち方をしていたにもかかわらず、ミスしないようにボールに合わせる間違った打ち方に変えてしまう人も多いのです。

その背景には、「フレームショット=下手」「空振り=恥」という人間心理がある。よい打ち方を手に入れるための一里塚として、空振りやフレームショットがあるのに、感情に負けて別の道を歩んでしまう。しかも、そこは地獄の3丁目。ボールに合わせて打つ打ち方に手を染めれば、容易には抜け出せない。骨の髄までしゃぶりつくされ、ある日突然、ポイッと上達の道から放り出され、テニス生涯に幕を下ろさざるをえないこともあるのです。

もちろん指導者からすると、教えている生徒さんが空振りばかり、フレームショットの嵐だと、「教え方が下手なのでは?」と思われる危険性がある。最悪、生徒さんがやめていなくなる。そんな恐怖が、潜在的にあると思います。なので、結果重視。早く結果を出して、生徒さんからの評価を得たい。こんな気持ちになれば、フレームショット、空振りをなくし、ミスしないテニスを教えるでしょう。

その気持ちは痛いほどわかるので、私の提案は、楽しく習えるコース、プロに近づきたいコースなどで教え方を変えることです。実際、エアロビクスやヨガ教室などは、お客さまのニーズ別に細かくクラス分けすることで支持を受けているので、できないことはないでしょう。

それで、プロに近づきたいコースを選択した人には、「今から1年は空振りばかりです。でも、1年後にはプロと同じフォームになりますので、私についてきてください」と言う。すると、受講生は納得、安心したうえで、空振りし続けられるわけです。

反対に、楽しく習えるコースを選択した人には、「すぐにボールが当たるようになりますよ。コートにボールを入れられるようにもなります。楽しいですよ。でも、これだけは知っておいてください。中級以上には行けません。たとえ行けても、勝ちづらいです。ですから、将来、レベルの高いテニスをしたい、レベルの高い試合で勝ちたいと思われるなら、コース変更をしてください。どうされますか?」と、こんな感じできっちり説明し、お客さまに選択してもらうのです。

私がオリンピック強化スタッフ&日本代表コーチを務めていたとき、同僚のひとりがフランスに勉強のために派遣されました。そこで、歳以下の強化ジュニアの練習プログラムを見たら、まさに1年間、サービスで空振りもしくはフレームショットを続けていたのです。

なぜ、うまいジュニアが空振りやフレームショットばかりするのか? それは、厚いグリップでサービスを打っていたのを変えさせられた時期だったからです。厚いグリップとは、ラケット面と手のひらの向きが一致する握りです。成人になってからテニスを始める女性が好んで使うサービスグリップで、すぐにサービスボックスにボールを入れることができる、一見、便利なグなので、幼少期に結果が欲しいジュニアも、とっつきやすいこともあり、無意識に導入することが多いわけです。ただ……先がない。つまり、テニスがうまくなり始め、もっと速いサービスを打ちたい、セカンドサービスは回転をかけダブルフォルトをなくしたい、という欲求が出たとき、厚いグリップでは実現不可能となるのです。

厚いグリップだと、速いサービスや回転のかかるサービスを打つのに欠かせない「プロネーション動作」がうまく機能しないからです。プロネーションとは、野球の投球動作と同じような腕の動きですが、これをサービスで有効活用しようとすると、どうしても薄いグリップでなければならない。そこで、フランスの強化コーチは、「1年間、空振りやフレームショットを続けよう。そして1年後、プロと同じサービスフォームを身につけよう!」と号令をかけるわけです。

彼らには不安が一切ない。1年間、空振りやフレームショットを打ち続けさせ、「このままジュニアが、永遠にサービスがうまく打てなかったらどうしよう……」という不安がないのです。

なぜか? すでに歴史があるからです。「薄いグリップに変更させても、1年もすればプロのようなサービスフォームになる!」という数十年にわたる成功データがあるのです。だから自信満々で空振りやフレームショットを打たせ続けることができるわけです。

【ポイント】正しい打ち方で発生する空振りやフレームショットは、良いショットを打つ一歩手前にでる。ほんの少しタイミングが合えば、すぐに最高のショットに変わる。

『新装版 勝てる!理系なテニス 物理で証明する9割のプレイヤーが間違えている〝その常識〟!』
著者:元オリンピック&日本代表コーチ 田中信弥
理論物理学者 松尾衛

元オリンピック&日本代表テニスコーチと気鋭の物理学者による常識を覆すテニス理論、指南書。5万人超のウィークエンドプレーヤーが納得した現場理論を、理論物理学で証明した、すべてのプレーヤーのテニスを躍進させる書。「サービズは上から下に打つのは間違い」「テニスは不等式でできている」「身体は動かさずに打つ」など、常識破り、型破りな指導法で結果を出し続ける田中コーチの独自のテニス理論を、理学博士の松尾氏が自ら体験で得たプレーを「物理屋」の観点で解説・証明する―――まったく新しいテニスの本!