正論とアドバイスは違う
●田中信弥/元オリンピック&日本代表コーチ
●「回転」の中に「まっすぐ」を入れ込む
全国行脚していると、「ストロークは体重移動で打つのが正しい」とするウィークエンドプレーヤーが多いことに、ちょっと驚きを隠せません。この間違った解釈は、私が小学生の頃からはびこっていて、かれこれ年以上も経つのです。が、まだ完全には拭い去れない。そんな状況を見ていると、「この先、テニス界は大丈夫なのか?」と、少し心配になるときもあります。
テニスは、後ろから前の動きが大きく出たらアウトです。一動作完結型のスポーツではないからです。1球打っても、すぐ次の1球を打たなければならない。次のボール、次のボールと、連続でボールを打つことが求められる。なので、野球のように1球1球、後ろから前の動きが入ったら、次に飛んでくるボールへの準備が完全に遅れる。つまり、試合にならないのです。
昔からいわれる「体重移動」という言葉には注意が必要です。あたかも、後ろから前に体重を移しながら打つことを連想させますが、世界トッププロでそんな打ち方をする人はいません(たまたま体重移動しながら打たなければならない状況はありますが、それでも移動している最中に一瞬、体幹を止める感覚をプロ選手は発動させます。でないと、ボールをコントロールしてしっかりと飛ばすことができないからです)。もちろん、軸足から踏み込み足に体重を移動させることはあります。チャンスボールを打ち込むときや、アプローチショットを打つときなどです。ですが、それは体重移動ではなく、体重移し。つまり、軸足から踏み込み足に体重を移してから打つ。ここが混同されているので、体重移動しながら打ち、「うまく打てない」と悩むウィークエンドプレーヤーが一向に減らないのです。
いちばんわかりやすい例は、錦織選手の「エアK」。彼は、軸足の右足から完全に踏み込み足である左足に体重を移しきり、さらにはその体勢のままボールを少し待ち、そのあとで地面を蹴りボールを打ちます。もし、体重移動のほうがいいボールが打てるなら、わざわざ踏み込み足である左足に体重を移しきらなくてもいいはずです。でも、そうしなければならない理由がある。体幹の力を溜めて打ちたいのです。体幹の力を、体重移動による前後運動でロスしたくない。なので、左足に体重を移しきってからエアKを打つわけです。あなたも絶対に、体重移動しながら打たないようにしてくださいね。
「回転運動で打ちましょう」は正論です。しかし、それだけではうまく打てない人も多い。ウィークエンドプレーヤーは、どうしても回転運動でボールを前に飛ばすイメージがないからです。考えてもみてください。前にボールを飛ばすのに、身体は回転? 脳が混乱して当たり前なのです。そして、脳はイメージできないものは実現できない。ですから、「回転運動しながらも、インパクトの30センチくらいだけはラケットをまっすぐ振ってもいいですよ」と言うと、うまく打てる人が多くなるわけです。30センチといえども、直線運動が入ると脳が納得しやすくなるからです。
●膝の曲げは120〜180度が最も多い
膝を曲げて打つ」も、危険なアドバイスです。確かに膝より低いボールを打つときは、90度くらいまで曲げることもあります。ですが、世界トップ選手のデータでは、大多数のショットで120〜180度の曲げ具合であることがわかっているのです。
180度といえば、ピーンと膝を伸ばした状態。言われ続けた常識とは真逆の打ち方をしていることになります。昨今は、ユーチューブ映像などで簡単に世界トップ選手が見られます。なので、好きな選手の名前+練習と検索すれば……120〜180度の膝の曲げで打つ世界トップ選手が、嫌というほど確認できるでしょう。
【ポイント】体重移動しながらは、絶対に打たない。体重移動後に打つ。(踏み込んで打つ場合)回転運動でうまく打てないときは、インパクト前後だけラケットの直線運動を意識してもよい。
『新装版 勝てる!理系なテニス 物理で証明する9割のプレイヤーが間違えている〝その常識〟!』
著者:元オリンピック&日本代表コーチ 田中信弥
理論物理学者 松尾衛
元オリンピック&日本代表テニスコーチと気鋭の物理学者による常識を覆すテニス理論、指南書。5万人超のウィークエンドプレーヤーが納得した現場理論を、理論物理学で証明した、すべてのプレーヤーのテニスを躍進させる書。「サービズは上から下に打つのは間違い」「テニスは不等式でできている」「身体は動かさずに打つ」など、常識破り、型破りな指導法で結果を出し続ける田中コーチの独自のテニス理論を、理学博士の松尾氏が自ら体験で得たプレーを「物理屋」の観点で解説・証明する―――まったく新しいテニスの本!
公開日:2021.09.28