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羽生結弦のスピンのようにスイングすべき理由とは!?【新装版 勝てる!理系なテニス】

曲がったものはまっすぐなものの集まり

●松尾衛/理論物理学者

身体は回転しているけど、ボールはまっすぐ前に飛ぶ。この現象を表す式はいくつかあるのですが、直感的には、回っているものも部分的に見れば「まっすぐ」の集まりと理解することが大切です。回ってはいるけれど、インパクトの瞬間を見れば「後ろから前」に動いている。回転運動は小さな直線運動の集まりなのです。それをわざわざ後ろから前に大きく動かすのはものすごく効率が悪く、自分でいろいろなものにブレーキをかけている。だから体幹を中心に、右から左に振り抜くと出てくる一部分の「後ろ→前」の動作を使って前に飛ばすのです。

宇宙から見ると地球は丸いですけれど、我々は“丸い”なんて感じていないですよね。それと一緒です。日常生活では地面は真っ平らだと思っていて、実際それでほとんど困らないですけど、実は丸いわけです。曲がったものは、まっすぐの集まりで理解しましょう、これが高校の頃に習った『微分』の考え方なのです。曲がったものをまっすぐに見るようにするのは、顕微鏡で拡大していく作業です。だから地球も、遠くから見ると丸いけど、どんどん拡大して倍率を上げていくと、真っ平らの集まりになるわけです。

世の中は、グニャグニャに曲がった複雑なものが多いですけれど、拡大してやればだいたいまっすぐになるのです。だから、複雑なものが出てきたときは、微分という操作でまっすぐなものに簡略化するのが第一歩となるわけです。

いちばん最初に言った、自由度を制限して、簡略化するという話です。実は、拡大しても拡大しても複雑なものは世の中にあります。例えば滑らかではないもの、蛇腹みたいに折り曲げられたものは、拡大しても折り畳まれた構造が出てくるのですが、こういうものは「フラクタル」という言葉が当てはまります。同じものがどんどん出てくる。尖っているところは、どれだけ拡大しても尖っている。そこは微分が活躍できないところです。

いろいろ言いましたが、こうした微分などという計算をできる必要はまったくありません。テニスを上達させるのに、複雑な計算式はいりません。プレーしている最中に、公式を使ってボールを打つ場面はないですから。ただ、「曲がったものはまっすぐなものの集まりだ」という考え方は一生使えます。考え方が変われば、プレーにも好影響が出てきます。曲面は平面の集まり、曲線は直線の集まり、このようなシンプルな考え方が大事なのです。

結局、曲げ伸ばし動作と、後ろ→前という直線動作が目についてしまいますが、小さな直線の集まりである回転運動で飛ばすことを理解する必要があるのです。確かに野球の投手などは、後ろから前の動作があります。でもボールは、軸足が地面に着いたあとの回転運動で投げているのです。もっと言えば、後ろから前への動作がなくても、その場で回転してスナップを使えば、ボールは投げられるのです。回って投げるのが基本軸であって、それにプラスする形で後ろから前への動作がある。この順序が逆になるから話がおかしくなるのです。

ここまで理解したとき、「回転をどうやって効率よく起こすか?」が次の焦点になります。ひと言で言うと「軸が動かないこと」。軸がブレると、きれいな回転が起こせない。そして、右から左にスイングする最中に︑後ろから前へ体重移動すると︑いちばんきれいな回転運動を妨げることになるのです(右から左へのスイングは、右利きの方がフォアハンドを打ったケースです)。

むしろ、松井秀喜さんのように後ろ足を軸にして打つタイプで、前から後ろに体重移動が起こるくらいのほうが、回転運動でヘッドは加速します。話は単純で、バットでもラケットでも、先端が身体に巻きつく。これが最もいい回転運動です。後ろから前への体重移動で、身体が前方に進みすぎると、いつまでたってもラケットが身体に巻きつかない。前方に進む身体を追いかけるように、ラケットも前に進むだけ。つまり、いつまでたっても回転運動が起こらない。これが後ろから前に体重移動しながら打ってはいけない理由です。

田中プロがよく例に出す、アイススケートの羽生結弦選手のスピンのように、その場に止まっていればいるほど急激な回転運動が起こり、結果、スイングスピードも上がるというわけです。

『新装版 勝てる!理系なテニス 物理で証明する9割のプレイヤーが間違えている〝その常識〟!』
著者:元オリンピック&日本代表コーチ 田中信弥
理論物理学者 松尾衛

元オリンピック&日本代表テニスコーチと気鋭の物理学者による常識を覆すテニス理論、指南書。5万人超のウィークエンドプレーヤーが納得した現場理論を、理論物理学で証明した、すべてのプレーヤーのテニスを躍進させる書。「サービズは上から下に打つのは間違い」「テニスは不等式でできている」「身体は動かさずに打つ」など、常識破り、型破りな指導法で結果を出し続ける田中コーチの独自のテニス理論を、理学博士の松尾氏が自ら体験で得たプレーを「物理屋」の観点で解説・証明する―――まったく新しいテニスの本!