外見は洋風、中身は和風の町家文化
お店の看板娘、お芝居には看板役者と呼ばれる人がいますが、建物にも看板建築というものがあるのをご存知でしょうか。昭和初期、関東大震災後に流行した、和風住宅が洋風のお面をかぶったような形式の店舗兼住宅の総称です。
看板建築は、ヨーロッパへの憧れがうんだものでした。しかしルネッサンスやバロックといった本格的な様式や、高級デパートのようなアール・デコのデザインは、庶民には手が届きません。
そこで個人商店の店主たちが考えたのが、建物の正面(ファサード)だけを西洋風に化粧するという方法でした。画家や大工さんたちに、家がかぶる洋風お面をつくらせ、店の正面を看板にしたのです。
看板建築は、外壁仕上げ材の違いからモルタル型と銅板葺き型の二つに分けられます。モルタル型は画家のデザインが多いようで、洋風ぽさが特徴です。銅板葺き型は大工さんが手がけたためか、どうしても和の要素が強く出てしまう傾向があります。
たとえば銅板葺きの壁面にフラットルーフを設け、洋風に見せている一方、雨戸の戸袋には、銅板の柄に江戸小紋が細工されている、といったことがあるのです。当時の職人の腕の見せ所だったのかもしれません。
モルタル、銅板の外壁は、本来、木造建築の延焼を防ぐためのものでした。住宅密集地の火災は、風や煙のとおり道になる表通り側を防火することが重要だったのです。
関東大震災後に看板建築が増えたのは、高価な鉄筋コンクリート造に手の出なかった一般の人々による防火対策の結果だともいえるでしょう。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 建築の話』
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「うだつが上がらない」は建築からうまれた言葉?
本書、「図解 建築の話」では建築について様々な知識を提供していますが、ここではその中でも日常生活でもなじみのある「うがつが上がらない」という言葉について、ご紹介しましょう。
「うだつの上がらない人だ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。うだつは漢字で「卯建」と書き、日本家屋に見られる設備です。うだつは防火設備だと解説されることがありますが、当初の目的は違いました。
中世から近世にかけての町家の屋根は、多くが板葺きでした。強い風にあおられると、めくれあがってしまいます。これを防ぐため、茅などを束ねて屋根を押さえたのが、うだつの始まりです。そもそも可燃性ですから、防火機能はほとんどなかったと考えられます。江戸時代に入ると、壁が漆喰塗りになり、屋根は瓦になって、町家の防火性は高まりました。しかし、軒裏部分は火が走りやすいので、袖壁を外に出し、漆喰で固め、延焼を防ぐ「袖うだつ」が登場します。
うだつが防火設備から意匠をこらしたものをにかわったわけ
このころ、うだつが防火設備になったのです。火事が多いのは冬ですから、袖うだつは冬に風が吹く側につければこと足ります。しかしそれではバランスが悪いので、厚みの違うものを両サイドにつけるようになりました。よく観察すると、風下側のうだつは薄く、風上側は火に耐えるよう厚く、つくられていることがわかります。
とはいえ、このようなうだつを設置するのにはそれなりの費用がかかります。そこから「うだつの上がっている家は成功している」というイメージが浸透し、「うだつが上がらない」という表現がうまれたようです。そのためか、現在も残っているうだつの多くは、本来の機能とは別にうだつの壁面には細かい装飾や小屋根に意匠を凝らしたものとなっています。
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【書誌情報】
『図解 建築の話』
著者:スタジオワーク
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公開日:2022.09.19