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スポーツ栄養の対象者ってどんな人?

Text:光成耕司

スポーツ栄養マネジメントのなかでも、アスリートに特化してマネジメントを行った場合を‟栄養サポート”といいます。それについて説明する前に、まず「スポーツ栄養を活用する対象者はアスリートだけなのか?」という疑問についてお答えしておきたいと思います。

スポーツ栄養の対象者とは

2006年、厚生労働省から『健康づくりのための運動指針2006~生活習慣病予防のために~』が策定されました。それによると、「生活習慣病予防のためには、継続して運動を実施することが重要です。このためには、まず、無理をせずに日常生活の中での活動量を増やすことから始めていくことが推奨されます。例えば、通勤・通学時の歩行や家事は、多くの国民が日常生活の中で手軽に行うことができる活動です」とあり、さらに「生活習慣病を予防するためには、身体活動量を増やすことに加えて、食事や休養のあり方も重要です。食事については、『食事バランスガイド』を参考に、バランスのとれた栄養素の摂取やエネルギーの過剰摂取とならないよう適切な食事を心がけましょう」と述べられています。つまり、運動と栄養とは表裏一体の関係にあるということです。

なお、表題にある運動指針は、「身体活動」「運動」「生活活動」の3つに分類され、以下の通りに定義しています。

  • 1 「身体活動」― 安静にしている状態より多くのエネルギーを消費する全ての動きのこと。
  • 2 「運動」― 身体活動のうち、体力の維持・向上を目的として計画的・組織的に継続して実施するもの。
  • 3 「生活活動」― 身体活動のうち、運動以外のもの。

これらの定義の中で、競技スポーツ(=アスリート)は②の「運動」に属することはいうまでもありませんが、スポーツ愛好家の方々や健康の保持・増進、いわゆる生活習慣病予防の改善を目的として取り組んでいる人たちも、その対象者であるということがいえるでしょう。さらにいえば、小・中・高の子どもたちもその対象者です。なぜなら子どもたちの場合は、学校教育の中で体育の授業があるから。つまり「運動」に対して明確な目的を見いだして取り組んでいる人たちすべてが、スポーツ栄養の対象者であるということをまず理解しておきましょう。

一方で、栄養学に「スポーツ」という冠を戴く以前、栄養学といえば、病気の回復や予防を目的とした学問、つまり病気にならないため、あるいは病気のリスクを抑えるために役立てられるものとして理解されているのが一般的でした。しかし、主体性をもち自らが思い描くような身体づくりのため、あるいはより元気になるための栄養学があってもいいのではないか、と。

そこで、上記の運動指針にも示されているように、その分野に取り組む人たちを対象に、より明確に位置づけられたのがスポーツ栄養学であるといえるでしょう。実は、この部分は未だに勘違いされやすいところ。そこで皆さんには、この機会にぜひスポーツ栄養の目指すところを再認識しておいていただければと思います。


なぜ、スポーツ栄養学が求められるのか

では、そもそもスポーツ栄養はなぜ必要なのでしょうか。そこで、その一番の対象者であるアスリートを題材に、その意義について改めて考えてみましょう。それを知ることで、スポーツ栄養の意義もより明確になると思います。

アスリートは日々自らのパフォーマンスを向上させるために競技力向上に努めています。すなわち、トレーニングや練習によって身体活動量(エネルギー消費量)が増えるのは必然というわけです。すると、その活動量に応じてエネルギーや様々な栄養素も求められるようになるため、当然食べる量(エネルギー摂取量)も増やさなければなりません。一般的にも、「今日はたくさん働いた(動いた)から、その分いっぱい食べて補いましょう」というのは当たり前の話です。

ところが、アスリートの身体活動量は一般の人たちの比ではありません。とはいっても、胃の中におさめられる量には限界があるもの。すなわち、食べることができる量には限界があるということです。‟大食い選手権”に出るような一部の特異的体質な例外な人たちを除いて、限度を越えてまで食べることはできません。それこそ食べることが苦痛になってしまっては本末転倒です。ところが、アスリートに対する一般の人たちのイメージは、「運動選手はいいよね。なにも考えずにいっぱい食べていいんだから」と思われがち。「楽でいいよね」と。しかし、食べきれなくなったときに思いもよらぬ悲劇が起こってしまうのです。

加えて、運動中は交感神経が優位になるため、消化・吸収が抑制され、その効率が低下してしまいます。さらに練習時間が長ければ長いほど、それに伴って消化・吸収を効率よく行う時間も短くなってしまうということになる。つまりそこには、「食べなければいけないけれど胃の大きさには限界がある」あるいは「いっぱい食べてエネルギーを補わなければいけないにもかかわらず、運動をすることによって消化・吸収の効率が落ちる」といった、さまざまなギャップが生じるというわけです。

では、そのギャップを解消するためにはどうすればいいのか。そこには様々な工夫が求められます。その工夫を提供するのがスポーツ栄養学であり、いい換えれば、スポーツ栄養学を活用することによって様々な難題にも立ち向かうことができる、と。だからこそアスリートには栄養サポートが必要であり、また個々人や競技特性に応じて、そのためのマネジメントが求められるという理由でもあるのです。

次回は、このギャップをいかにして埋めていくか。その解決策について具体的にお話ししたいと思います。

一般社団法人 日本スポーツ栄養協会(Sports Nutrition and Dietitian Japan)
URL:https://sndj.jp
設立記念メディアセミナー 『スポーツ栄養の世界とは』
SPEACH:鈴木志保子(一般社団法人 日本スポーツ栄養協会理事長、公益社団法人日本栄養士会副会長、神奈川県立保健福祉大学 教授)
TEXT:光成耕司

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