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「楽しい野球がしたいからグラウンドには来ないで」学生との野球観の違いとは!?【東農大オホーツク流プロ野球選手の育て方】

Text:樋越勉

最初の失敗

最初の指導をすべくグラウンドに向かうと、そこには野球部とは程遠い雰囲気の選手たち。悪く言ってしまえば同好会の様な選手が数名いた。挨拶をするとみんなは、明らかに不機嫌や嫌な顔で私を歓迎していないことは明白だった。まずは主将と副将を呼んで、話をするとさらに愕然とした。

「僕たちは楽しい野球をやりたい。楽しくみんなで野球をやりたいので、当分の間はグラウンドに出てほしくない」そう告げられた。私もまだ若かったので、その言葉に激高し呆れた。「勝手にしろ」とグラウンドには出ないことにした。

今思えば反省もある。当時の私には何が起きたのかを考える余裕が無かった。職員として夕方4時半には仕事を終え、私が以降もとてもお世話になる近くの龍寿司という店で毎日5時前には出向いた。単身赴任だったため、毎晩夕食を取ってフラフラと夜の街へ出ていった。

そんな日々が2ヶ月は続いた。さすがに「こんな事で良いのだろうか?」「何が原因なのか?」を考えてみることにした。

すると、どうやら私に対する誤った情報が広まっていたようだ。日本学園高校で監督をしていた時の教え子が何人かこの学部にいたため、彼らが私のスパルタのイメージを更に増幅させて、ここの野球部員たちに伝えていた。選手たちは本能的に「スパルタで追い詰められ、自分たちの野球が楽しくなくなる」と受け止めたようだ。私も私で、そんなことはつゆ知らず、学生の立場を考えずに攻撃的な態度になっていた。導入の部分で失敗をしていた。

わざわざ北海道に来たフロンティアスピリッツを持った学生たちにとっては、頭から押さえつけられることに抵抗があったのだろう。その抵抗は激しく、夏が終わるころまでグラウンドに出ることはなかった。

結局、当時の野球部長だった田川先生(創設者)に促されてグラウンドに出る事になる。しかし、学生と私の間の野球観の違いは大きく、私から見たら中学生以下のレベル。本人たちは精一杯練習をやっているというが、私には到底その様な姿には見えなかった。
 ここが、私の最初の組織作りの始まりの部分だ。ここで一番私が感じた事は情報の錯綜、悪い話の増幅、新しい学部の学生像をちゃんと私が考えなかった事。また、それを受け入れられなかった私自身の未熟さが、一番後悔されるところだと思う。

「学生(部下)の特徴を把握し、私自身がどんな人間かを知ってもらうこと」は組織作りの導入に一番大切な事だと思う。相手を知り、自分を知ってもらい相手の情報量、情報の質、相手の考え方を熟知してから組織作りに入る。これが一番大切な事である。出来上がった組織をもう一度作るという事は、並大抵な努力ではないかと考える。

出典:『東農大オホーツク流プロ野球選手の育て方』著/樋越勉

『東農大オホーツク流 プロ野球選手の育て方』
著者:樋越勉

多くのプロ野球選手を輩出する北の最果て、北海道網走市にある東京農業大学オホーツクキャンパス野球部。恵まれた施設環境ではないにも関わらず、なぜ有力選手が育つのか⁉東農大学野球部のカリスマ、樋越監督の選手を見抜く眼力と、その育成術を紹介‼プロ野球選手の育て方、ドラフトへ送り込む手腕、練習環境の整え方などを、具体的に解説するプロ野球ファンや指導者必見の一冊。愛弟子の周東佑京のコメントも収録。

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