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1部昇格後、常勝軍団となった野球部に立ちはだかった試練とは!?【東農大オホーツク流プロ野球選手の育て方】

Text:樋越勉

推薦入部も一般入部も関係ない

1部昇格後、チームの力も安定してくると、私やこの大学の野球に惹かれて、多くの高校生が受験をしてくれた。スポーツ推薦入試以外にも、指定校推薦、自己推薦など様々な入試を経て私のところに選手が集まってきて、130人近い大所帯になった。さらにその後も常勝軍団としてメディアにも取り上げられ、新聞の紙面でも度々記事に書かれるようになり、相乗効果でどんどん人が集まって来た。

右肩上がりの成長の中で、我々を快く思わない者も学内に出てきた。そこに出てきたのが隠れSPという言葉だ。スポーツ推薦以外で入学する学生を「隠れSP」と呼び、その学生たちを非難し排除しようとする力が動いた。

私にとっては、スポーツ推薦も一般推薦も指定校推薦も全部、この農大を思い、農大の門を叩き、勉学をしながら野球をやりたいと思って集まった学生たちだ。何も分け隔てる事はなく、グラウンドでも、スポーツ推薦での入部だから、一般入部だから、と区別することはなかった。全員を同じように扱い、一般入部からレギュラーになって頑張ってくれた選手が複数いたのも事実である。

ある時ある学科の学科長から隠れSPを全員集めるように学生マネージャーを通して言われた。マネージャーは慌てて私に「どうしましょう」と言ってきたので何と言われたのか詳しく聞くと、「隠れSPを炙り出して、一言言いたい。また、その時に監督と部長も参加して欲しい」とのことであった。学部長で野球部長であった石島先生にそれを伝えると「言語道断、そんなことは無い。学生をそのように差別するのは良くない」と無視するよう言われたが、そうも行かず。私とスポーツ推薦以外で入学した学生たち数名を連れて、学科長室に出向いた。その教員はその人数の多さに驚いた様子だった。

「こんなにいるのか、隠れSPが」私はその時、同じ教育者としてとても恥ずかしく感じた。同じ教育者の中で学生にレッテルを張り、同じ学生なのに平等に教育を受けさせないとでも言うのか。なんて恥ずかしい教員だと私は蔑んだ。

こうした組織の中には情報の錯綜や操作がされ、選手達は学部内で特別扱いをされるようになる。それもプラスの特別ではなく、マイナスの特別だった。これは野球部にとっても学部にとってもマイナスであると思った。

 

「こんなことがまかり通るのか!」と怒りを覚えたが、現にそのような考え方を持つ人間がいるというのも否定できない事実だ。社会の中で不条理、不道理は常なものである。

  

 そのあと私は選手全員を集めて、話をした。

  

「いつかお前たちが認められる時が来る。いつか悪く言っていた人たちが間違いに気付く時がある。俺たちは胸を張って生きていこう。胸を張って勉強をしよう。胸を張って野球に打ち込んでいこう」

  

これは、教育の現場であってはならない悲しい出来事だ。しかし、時が過ぎそのような風潮もなくなり、大学の皆さんが野球部を応援してくれるようになってきた時に、私はふと考えた。

そこには、私の傲慢さ、周りへの気遣いの無さ、周りへの謙虚な気持ちが無かったのではないか。こうした現象を起こしてしまったのは私の日常生活の態度が原因だったのかもしれない。そう考えるようになった。

後々良く考えると、その当時は新しい学部ができて、学科の中で様々な競争、順位付けがあり、その学科長はそこで生き残る為にそんな行動に出たのかもしれないと思った。これが「組織の中のいじめの構造」だ。自分が組織に認められたい、自分が組織の中の地位に固守したい。そのかじりつきたい時にいじめの構造が生まれるのだ。

   

自分の立場を守るために、自分の立場より弱い人たちを攻撃することによって自分のいる場所を作る。往々にしてそういう人間は精神的に弱い。だから考え方がマイナスに動くのだろう。弱い者をいじめて強く見せる。これがいじめの構造だ。

これはどの社会でも同じ。小学校でいじめっ子が弱い子をいじめる。その子自体が家庭に問題があったり、その子自体が自分の弱さに負けないようにするために、自分より弱い者をいじめて、自分の立場を有利にする。これは大人も一緒。だから組織作りには、そのような事が起きないようにしなくてはいけない。

みんなが平等に、働いたり、主張したりできるようにしなくてはならない。今の日本でもそうであろう。政治家にしても同様、弱い者が強いものに媚を売る為に自分より弱い者をいじめる。そんな社会は無くさなくてはいけない。

 

野球部の中でもそのような事が起きないよう、1年生の仕事を手伝うように上級生には促している。社会でもそうなのだ。下を思いやり下の為に気を遣うことにより、円満に仕事が回っていく。

 

本当にあの時の学科長に対しては失望したが、それもまた組織や社会の中の不条理や不道理。この件からも学ぶことは多かった。

出典:『東農大オホーツク流プロ野球選手の育て方』著/樋越勉

『東農大オホーツク流 プロ野球選手の育て方』
著者:樋越勉

多くのプロ野球選手を輩出する北の最果て、北海道網走市にある東京農業大学オホーツクキャンパス野球部。恵まれた施設環境ではないにも関わらず、なぜ有力選手が育つのか⁉東農大学野球部のカリスマ、樋越監督の選手を見抜く眼力と、その育成術を紹介‼プロ野球選手の育て方、ドラフトへ送り込む手腕、練習環境の整え方などを、具体的に解説するプロ野球ファンや指導者必見の一冊。愛弟子の周東佑京のコメントも収録。

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