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元ヤクルト/DeNAの風張蓮がプロへの道を切り開いた大きな分岐点とは!?【東農大オホーツク流プロ野球選手の育て方】

Text:樋越勉

山奥の逸材

風張蓮 2014年度卒・ヤクルト(2015-2020)、DeNA(2021-)

 彼は中学時代に軟式ながら最速138キロを記録していたほどの逸材だった。岩手県選抜にも選ばれ、東北の強豪校からすべて勧誘されたほどだったと聞く。だが気心知れた仲間たちとの甲子園出場しか考えず、誘いを断り、自宅から一番近い伊保内高校に進学したそうだ。

息子・優一が通っていた千葉経済大附属高校と伊保内高校が合同練習をした際に「今日、凄いのがいた」と息子から連絡を受けた。それが風張だった。千葉経済大附属の松本監督に電話したら「彼はいずれプロでしょう。絶対に獲った方がいいですよ」と勧められた。

そこから私は、伊保内高校に足繁く通った。学校は周りに何も無い山の中。青森の二戸で電車を降りて、そこからレンタカーで30分。青森と岩手の県境を越えて、狸も出るような暗い山道をずっと行った九戸郡九戸村に伊保内高校はあった。練習場所は近くの村営グラウンドで、その明かりを目指して、何度も通った。

 

会話はできても、いつも二言三言。それを何度も繰り返した。すると両親が「これだけ熱心に来てくださる樋越監督のもとへ行ってやるべきだ」と言ってくれて、これが一番の決め手になった。最後は学部長を連れて行って、校長先生・両親・本人で面談して、お父さんが「大学はここにしなさい」と本人に言ってくれた。甲子園に行っていたらプロへ行っていたかもしれないが、県大会で負けたのでウチに来ることになった。

 

東京六大学リーグ、東都大学リーグといった強豪校からも誘いはあったようだが、高校の監督さんも「田舎の子だから都会に出して潰れてしまうよりかは北海道の方がいい」と思ってくれたようだ。性格的には、ずっとワンマンチームでやってきたから「俺がやる!」という気持ちでやってきたのだと思う。だが大学に来るともっと凄い奴がたくさんいる。そこでちょっと戸惑っていた時期もあったが、結局は自分を貫くことができた。群れずに、自分のやるべきことを黙々とやることができた。体も強かった。「俺の道を行きます!」という気概があった。

風張は当初、体は大きくても鍛えられてはいなかった。我流で鍛えさせてもダメになると感じた。体の動きを覚えさせようと、鳥取にあるワールドウィング(イチローなども通う初動負荷理論に基づいたトレーニング施設)にも私が金を出して行かせた。「いろんな話を聞いて来い」と送り出して、帰ってきてからはみんなの前でレポートを発表してもらった。

高校時代からプロも注目して150キロ近く投げていたので、これはちゃんと育てないと周りから何を言われるか分からないというプレッシャーもあった。入ってきた時点でのポテンシャルは、過去のどの選手よりも群を抜いていた。「プロに絶対行かせる」とまで言いきったので大切に育てた。ただ、大切に育てすぎて一本立ちまでには時間がかかった。球は速いけど、制球がまとまらない。高校生だと手を出してくれるボール球を大学生は振ってくれないからだ。

 

先発しても2回から3回までは好投するのだが、5〜6回になるとボールを置きに行きはじめ、相手打線に捕まることが多かった。ずっとそこで壁にぶち当たるので、彼に言った。「もういい。3回まででいいから全力で投げろ」全開で行かせて、あとは玉井大翔や井口和朋に繋ぐことにした。そうやって全力で行けるところまで行かせているうちに、彼なりに掴んだものがあったようだ。そこは一つ大きな分岐点になった。

150キロ近い球を短いイニングで全力で飛ばして投げているのだから、リーグ戦では打者が前に打球を飛ばすことすら大変だった。良くなったからには、次は「いかにして彼を売り込むか」だ。しかし、この年の春のリーグ戦では優勝を逃してしまった。「優勝できる」と思ったシーズンで負けたのは、これが初めてだった。「全国優勝できる」とさえ思っていた世代で、大学選手権すら出られないのは一大事だった。

プロ入りに向けても、相変わらずのんびりしたところはあったが、しっかりと調子を上げてくれた。東北の企業チームへ練習参加した時は、社会人野球の打者が前に打球をまったく飛ばせないほどの球を投げていた。これをスカウトも観ていたので、「やっぱり風張は良い」と評判になっていき、最終的にはヤクルトから2位で指名を受けることができた。

そして、秋の全国大会である明治神宮大会にもなんとか出場できた。ただ、出たのはいいが、風張は初戦の1回の一塁ベースカバーで肉離れを起こしてしまった。その後は報道陣に嘘をついて「あんな舐めた投球しているから、もう使わない」と言ったが、実は投げられる状態ではなかった。

だがそこから井口や玉井、野手陣が奮起してベスト4進出。最後は今永昇太(DeNA)や江越大賀(阪神)のいた駒澤大に敗れたが、風張がいれば日本一になれたと今でも思っている。最後まで「持ってない奴だな」と思った(笑)。ただ、よく成長してくれた。プロではまだ成功を収められていないが、ポテンシャルは凄いものを持っている。

人見知りだから俺に預けたのだと思うのだけれど、プロでも環境に慣れるのに時間がかかったのだと思う。ヤクルトを戦力外にはなってしまったが、拾ってもらったDeNAでひと花咲かせてもらいたい。

出典:『東農大オホーツク流プロ野球選手の育て方』著/樋越勉

『東農大オホーツク流 プロ野球選手の育て方』
著者:樋越勉

多くのプロ野球選手を輩出する北の最果て、北海道網走市にある東京農業大学オホーツクキャンパス野球部。恵まれた施設環境ではないにも関わらず、なぜ有力選手が育つのか⁉東農大学野球部のカリスマ、樋越監督の選手を見抜く眼力と、その育成術を紹介‼プロ野球選手の育て方、ドラフトへ送り込む手腕、練習環境の整え方などを、具体的に解説するプロ野球ファンや指導者必見の一冊。愛弟子の周東佑京のコメントも収録。

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