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頭を打って記憶喪失……本当にあるの?【生物の話】

Text:廣澤瑞子

~脳の神経細胞と記憶の仕組み~

電柱に頭をゴンッとぶつけて、その拍子にすべての記憶が飛んでしまった!! 人気の朝ドラでも、主人公のお父さんが暴漢に襲われて頭を打ち付けられ、記憶喪失に……というような設定がありました。こんなこと本当に起こるのでしょうか。

脳の神経細胞は情報処理と情報伝達に特化した細胞で、神経系の最小単位です。その構造は独特で、細胞核を有する細胞体、細胞体から長く伸びた軸索、そして軸索以外の短い突起である樹状突起は、名前の通り枝分かれした構造です。神経細胞が刺激を感じると活動電位が発生し、それを信号として細胞間で情報を伝達します。ただし、神経回路は電気回路とは異なり、軸索の末端と、信号の受け手の細胞との間にシナプスというわずかな隙間があいているので、その隙間に電気は通すことはできません。生物はこのシナプス間で化学物質による信号の伝達を行うのです。このように脳では、神経細胞と神経細胞が複雑に結びついたネットワークがつくられます。記憶が形成されるということは、つまり、シナプスでの情報の伝わりやすさが変化をするということです。

記憶には、長期記憶と短期記憶の2種類があって、たとえば、テストの前夜の一夜漬けの暗記が、短期記憶にあたります。短期記憶は長くても数日しか保持されません。忘れなかった記憶がやがて長期記憶に差し替えられ、記憶として定着します。この記憶の差し替えには大脳の海馬と呼ばれる部分が関与していることがわかっています。

記憶喪失は、物理的あるいは心的要因で、海馬がダメージを受けることで発生します。頭を強打して、記憶喪失……そこまでの強打では、生命自体が危険にさらされていることが想像できます。

神経細胞の構造【生物の話】

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 生物の話』
監修:廣澤瑞子  日本文芸社刊

執筆者プロフィール
横浜生まれ。東京大学農学部農芸化学科卒業。1996年、東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、米イリノイ大学シカゴ校およびドイツマックスプランク生物物理化学研究所の博士研究員を経て、現在は東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻細胞生化学研究室に助教として在籍。著書に『理科のおさらい 生物』(自由国民社)がある。


「人間は何歳まで生きられる?」「iPS細胞で薄毛を救う?」「三毛猫はなぜメスばかり?」「黒い花は世に存在しない?」ーー生命の誕生・進化から、動物、植物、ヒトの生態、最先端の医療・地球環境、未来まで、生物学でひもとく60のナゾとフシギ!知れば知るほど面白い!

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