氣が心を動かし、心が体を動かす
ここまで荒川先生に教わった「氣」について、私なりに一生懸命、説明してきたつもりです。しかし氣は目にも見えませんし、また私の浅い理解では、みなさんに上手に伝えられたかどうか心配でなりません。そこでこの章の最後に、これまで書いてきたことを少し整理してみます。
氣の正体がわからなくとも、氣が私たちの生活に深く関わっていることを否定する人はいないはずです。好むと好まざるにかかわらず、また信じようが信じまいが、私たちは無意識のうちに氣に包まれて生きています。それはやる気、元気、気持ち……などで、私たちが日常に使う言葉でも明らかです。
その氣に、なんらかの力があると感じている人も少なくはないでしょう。気迫は目に見えない迫力ですし、気を揉んだり、気が滅入ったりしていれば「病は気から」の諺どおり病気にもなりかねません。
そうした氣の力を野球の指導に持ち込んだのが荒川博先生でした。合氣道をはじめ、居合術や歌舞伎など、古くから伝わる日本の武道や芸事に、体の小さな日本人が勝つヒントを見出そうとしました。
「氣が心を動かし心が体を動かす」は、荒川先生の口癖でした。なんだか精神論に聞こえますが、たとえば能は約20キロもある衣装をつけて、跳んだり跳ねたりする伝統芸能です。そうした身のこなしは、はたして筋力がありさえすればできる、というものではないでしょう。そこには達人と呼ばれる人の一流の身のこなしもあるでしょうが、それを支えるのが氣である、というのが荒川先生の考えだったように思います。
その氣の力をゴルフのスウィングに活かそうというのが、本書の目的です。まずは普段、意識していない氣を意識してください。次はその氣を、臍下丹田に鎮めるよう意識します。そして、その氣を体の隅々まで行き渡らせたら、いよいよスウィング理論の始まりです。
【書誌情報】
『ゴルフのトップコーチが教えるスウィングの真髄』
著者:辻村明志
上田桃子、小祝さくらプロをはじめ、女子のトッププロたちをコーチしている本書の著者・辻村明志氏。王貞治選手の一本足打法を作り上げた故・荒川博氏に師事し、ゴルフ指導に取り入れたことは有名だ。本書は、荒川氏から受け継ぎ、コーチングに活用している「氣のスウィング理論」を解説するもの。「氣は心を動かし、心が氣を動かす」という、同氏の考えに基づき、氣の力をゴルフスウィングに活かすことを目的に、その方法をイラストと写真を使いわかりやすく紹介する。
公開日:2020.06.11