小さな変化も逃さない量子センサー!
「電子が1個、電子が2個〜」と量子の粒を数えることは、世界でいちばん小さなスケールで〝もの〟を数えていることになります。そうした特徴を使って小さな変化を測定する装置が「量子センサー」で、数える対象にはエネルギーや明るさ、電気、位置、速さなどさまざまなものがあります。
量子センサーでもっとも有名なセンサーの1つが磁場のセンサーです。磁場(の束)の最小単位は磁束量子と呼ばれ、1束、2束と数えることができます。ちなみに、みなさんの体にはいま地球からの磁場がおおよそ100億束くらい通っています。なので、磁束量子1束がいかに小さいかがわかるかと思います。
磁場の精密測定には超伝導体という特殊な物質が使われています。この物質をリング状にした「超伝導リング」は、磁束が1束、2束、3束〜と整数でしか入らない特徴を持っていますが、これを使って小さな磁場の変化を数えることができます。それが最小の数え方だと思っていたら、さらに応用型の「SQUID(スクイッド)」というすごいデバイスが登場しました。先ほどの超伝導リングにうっすら切れ目を入れたSQUIDでは、リングの中を整数以下の束までが通れるようになりました。たとえば2・1束、2・2束〜のようにです。いまでは非常に精密な磁場が測れるようになったSQUIDを使って、半導体検査や地熱調査、金属資源の探索などさまざまな測定が行われています。
わたしたちに身近な応用の例として、SQUIDを使った脳磁場の測定があります。わたしたちの脳は興奮するとすごく小さな電流が流れ、その電流によってほんのわずかな磁場が発生します。
この微小な磁場の変化をSQUIDは逃しません。多様なシチュエーションで脳のどの部分が活動しているのか測定することで、脳の機能の理解が大きく進んでいるのです。
量子センサー超伝導リング
量子センサーの超伝導リングでは左図のように整数個だけ穴の中を磁束が通れるが、SQUIDでは右図のように整数個以外でもリングを通れる。量子センサーは非常に高い感度で磁場や温度などを測定できるため、既存のセンサーでは計測不可だった微弱な信号を感知し、生体内の活動などの測定も可能。
脳磁計
被験者が動いてもスキャンが可能となった脳磁図検査用スキャナー。この装置は脳全体をスキャンして脳の電気生理学的過程が観察できるため、罹病時や健康状態での脳の活動を調べることができるという。
資料:fabcross for エンジニア powered by MEITEC
「ひつじが1匹、ひつじが 2匹〜」なんて寝るための呪文があるよね(これは都市伝説がいろいろあって出元がはっきりしない)。ひつじを「電子が1個、電子が 2個〜」に変えて数えてみると、この世でいちばん小さな単位をボーッと唱(とな)える単調さに、ついまぶたがふさがるかも。そんな極小のものを物理的に測定するのが「量子センサー」。中でもSQUIDは磁場を測るためのすぐれた装置なんだね。それに脳磁場も測れるから、あまりにも怒り狂っている人には、「怒り過ぎて頭から湯気と磁場が出てるよ」とこっそり教えてあげるのもいいかも。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 量子の話』著:久富隆佑、やまざき れきしゅう
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 量子の話』
著:久富隆佑、やまざき れきしゅう
その登場以来、物理学の常識を打ち破り、宇宙・自然観から人々の生活まで一変させた革命的理論といわれる「量子(論)」。近年のノーベル物理学・科学賞の受賞者のほとんどが量子論と関わった研究者といわれ、特に注目を集めている。
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公開日:2025.01.23