優位さを失なったら速やかに離脱しよう
孫子はいう。戦場では、敵の十倍の兵数なら、包囲攻城戦をするも可。五倍であれば敵に真っ向勝負で襲い掛かる
二倍であれば敵軍を分断し、互角であれば死力を尽くして干かん戈か を交え、敵軍より少なければ巧みに撤退し、兵力数でまったく及ばなければ、敵に見つからないよう心掛ける。兵力が少ないにもかかわらず頑かたくなに戦いを求めれば、捕虜になるのが落ちであると。
およそ軍の指揮官は、敵軍と遭遇する前に自軍と敵軍の戦力を正確に把握し、客観的な分析を加えなくてはならない。右に記したのはその具体例だが、ここで特記すべきは、数のうえで劣勢ながら、敗北を回避する方策である。
これを解釈するに、まったく勝算が立たなければ損害を最小限にとどめながら帰還を選択すべきで、敵軍に発見されないようにするのはもちろん、捕捉されるのを絶対避けねばならない。
万が一見つかったら、後衛に時間稼ぎをさせておき、巧妙かつ速やかに敵の攻撃圏内から離脱する。あらかじめ退路の目星をつけておくのも、指揮官として当然の責務である。
退却が間に合わなければ、せめて身を隠さなければならない。名を惜しむあまり玉砕を敢行するなどは稚拙の極み。他日を期するためにも犬死は避けるべきで、命をこそ惜しむべきということである。
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』
著者:島崎晋
新紀元前500年頃、孫武が勝負は運ではなく人為によるとし、その勝利の法則を理論化した兵法書。情報分析や見極め、行動の時機やリーダー論等、現代に通じるものとして今も人気が高い。「名言」を図解でわかりやすく紹介する。
公開日:2021.08.29